2025816日()

(2)第5回「挑む心、発信のススメ」

スタートラインへ

 一人一人のチャレンジが地域を変えるー。大分を舞台に活動する挑戦者らが泉都・別府で意見を交わした。第1部のキーノートセッションで、企業への投資・経営に携わり、世界の過酷なマラソンに出場してきた小野裕史さんが挑戦のスタートラインに立つ大切さ、情報通信技術で様変わりする世界を紹介。第2部のトークセッションでは出演者が、人を巻き込んでいくために必要なこと、大分で活動する意義などについて語り合った。「失敗は次へのステップ」「大分がブレークすると信じている」。聴講者の心に火を付けるフレーズが飛び交った。

【キーノートセッション】

「ミライ宣言」を掲げる出演者=25日、別府市の別府ヒットパレードクラブ
 キーノートセッションは、アドバイザーの小野裕史さんが情報通信技術の急速な発展による社会情勢の変化を紹介。インターネットを通じて個人が気軽に情報発信でき、他人に影響を与えられる環境を「利用しない手はない」と話した。

 ツイッター上の呼び掛けで知り合った人とのつながりから馬術の長距離耐久レースに出場したり、九州全県を回るマラソンに挑戦した経験などを基に、ネット上の情報発信ツールが人や物事との多様なつながりを生むことを説明。「小さなきっかけで、どこでも誰とでもつながれる時代だ」

 代表を務める会社が運営するライブ配信アプリで、高齢の女性利用者が注目を集めている事例を紹介。興味のあることは「やると即決する」という自身の生き方にも触れ、「人はスタートを切るだけで、目標実現に向けた方法を考えるようになる。『できるか』ではなく、『やりたいか』が大切」と強調した。

 講話後、コーディネーターの大分合同新聞社の直野誠報道部編集委員は「仕事上、即決できない事もあるのでは」と質問。小野さんは「最終的に意識するのは直感。論理は後から付いてくる」と答えた。

【トークセッション】

出演者の発言に熱心に耳を傾ける一般参加者ら
 トークセッションには全出演者とアドバイザーが参加し、和気あいあいとした雰囲気の中、挑戦への原動力や活動を発信するための課題などについて議論。今後の目標を示す「私のミライ宣言」をスケッチブックに書き込み、さらなる挑戦への意気込みも語った。

 挑戦に付きもののリスクや失敗との向き合い方について、出演者は「簡単にうまくいかないのは当然で、リスクを取らないと分からない」「失敗が経験となり、成功の糧となることの方が多い」と口をそろえた。

 新しい働き方を体現しながらウェブ制作などの会社を経営する河野忍さん(大分市)は「やりたいことがあれば、できない理由を考えるよりどうやったらできるかを考えた方がいい。私自身が人に影響を受け、資金などを支援してもらったように、夢を持つ人たちの背中を押したい」と熱い思いを語った。

 大分市中心部の新スポットとして注目されるカモシカ書店店主の岩尾晋作さんは「本屋を開く場所が大分である必要はなかったが、離れていても常に古里は脳裏にあった。世界的にも豊かな場所だと確信している」と大分の可能性に触れ、「本質を大切に、自分がモチベーションを持てる愛のあることだけをやり続けたい」と語った。

 日田市で児童生徒のキャリア教育や就職支援などに取り組む岡野涼子さんも「課題が多い地方こそ魅力発見の楽しみが潜んでいる」と指摘し、「活動に苦労する姿も思い切り楽しんでいる様子も、子どもたちに包み隠さず見せることで共感が広がる」と若者や行政とつながる手法を熱弁した。

 個人が気軽に世界に向けて情報発信できる時代にある中、国東市で創業支援などを手掛ける南暁さんは「個人向けへのアプローチはSNSやテレビコマーシャルなどがあるが、いい物を作っても特定企業へのPRは人脈がなければ難しい」と情報発信の課題について指摘。

 別府市で日本酒バーを営む丸田晋也さんは、クラウドファンディングで成功した経験を紹介。地元企業と協力しながら、話題づくりを含めて取り組んだことを基に、「周囲に頼り、巻き込んでいくことも情報発信につながるのでは」と話した。

 アドバイザーの小野裕史さんは「テクノロジーの発展に伴い世の中の常識も変わっていく。新しいことをまずは受け入れることが重要。直感も大切にして、自分の常識を疑い、いかに壊していくかもチャレンジだ」と提言した。

参加者の声

<自分も開業、挑戦中>
 別府市扇山の中小企業診断士、三室忠之さん(48)
 小野裕史さんが提唱し、面白いと思ったことに対して即座に目標を設定する「ノータイムポチリ」が特に印象に残った。出演者全員がそれぞれ前向きにチャレンジしており、挑み続けることの大切さを感じる機会になった。自分も4月に開業したばかりで、挑戦中。ハピカムでパワーをもらった。

<自らの考え大切に>
 大分市東八幡の鍵・防犯関連会社社長、片山勇さん(51)
 多くの情報が飛び交う世の中になったが、登壇者は流されることなく、自分の考えを大切にした生き方をしていると感じた。他者の価値観を認める力を兼ね備えているのも印象的だった。自分自身もチャレンジを続けている。ゴルフ関連の新規事業を始めたので、挑戦を通じて社会に貢献できれば。

<実行へ刺激になる>
 大分市花園の県職員、藤田壮大さん(46)
 何かに挑戦する時に自分で制約をかけてしまったりするものだが、とにかくやってみるのがいいのではないかと背中を押された。サブカルチャーを通じた地域振興が自分の目標。ハピカムは実行への刺激になった。発信についても議論が交わされ、情報通信技術をうまく活用して事業などを展開する必要性を感じた。

◆出演者プロフィル◆

▽岩尾晋作(いわお・しんさく)さん(36)
 大分市出身。都内のアパレルや映画会社、大手書店に勤務した後、帰郷。2014年、大分市中央町に古本屋とカフェが一緒になった「カモシカ書店」をオープン。「大分で会いましょう」「旅するシューレ」など県内の魅力を再発見して、全国に発信する事業に携わる。ウェブメディアなどで執筆活動を展開。

▽丸田晋也(まるた・しんや)さん(30)
 大分市出身。地酒専門店「丸田酒舗」の2代目。中学・高校時代はダンスや演劇などエンターテインメントの世界で活動。2009年、同店に入り、16年から店長を務める。19年、別府市にクラウドファンディングを活用して「Beppu Sake Stand巡(じゅん)」をオープンさせた。

▽河野忍(こうの・しのぶ)さん(33)
 大分市出身。小学生の頃から個人のホームページを作る。高校を卒業後、福岡や東京の会社に勤務。2011年にホームページ制作や業務改善提案などを手掛ける「モアモスト」、16年にペット関連の情報を発信する「ペットリボン」を創業。週に何日かは別府市内の温泉の番台に座る。

▽南暁(みなみ・あきら)さん(40)
 大分市佐賀関出身。地元の高校卒業後、県内の人材派遣会社に就職。30代前半で結婚し、国東市へ。妻の実家の酒造会社の役員や東京都での起業を経て、創業支援や事業開発に取り組む第三セクター「未来企業カレッジ」代表取締役に就任。国東市の産品を扱うECサイトも運営。趣味は料理と幼少期から親しんだ釣り。

▽岡野涼子(おかの・りょうこ)さん(41)
 日田市出身。地元民放局のリポーターを経て、キャリアコンサルタントの国家資格を取得。大分大学に地域リーダーを育成する取り組みのコーディネーターとして勤務。2018年、一般社団法人NINAU(になう)を設立。キャリア教育や企業支援を通して、若者が活躍できる場所づくりを進めている。

▽小野裕史(おの・ひろふみ)さん(44)
 札幌市出身。2000年よりシーエー・モバイルの第1号社員として創業を率いる。08年インフィニティ・ベンチャーズ設立。13年には北極、南極、砂漠でのマラソン体験記「マラソン中毒者(ジャンキー)」を出版。現在はライブ配信「17 Live(イチナナライブ)」の「17 Media Japan」の代表取締役も兼務。