2025101日()

(2)第4回「スポーツは地域を沸かす」

地域つなぐ役割を

 人を、地域をわくわくドキドキさせる力がスポーツにはある―。第1部のキーノートセッションでは、Jリーグ川崎フロンターレで数々の地域密着事業を展開した天野春果さんが、プロスポーツクラブが地域に愛されるために必要なことを紹介した。第2部のトークセッションでは、出演者が生きがいづくりや人材育成、共生社会の実現など多様な視点からスポーツの力を語った。スポーツを通してどのような地域課題を解決するのか。大分だからこそ生かせるスポーツの力とは。議論を深め、「ミライ宣言」を考えた。

【キーノートセッション】

大切にしているキーワードを掲げる出演者=2日、大分市の大分銀行ドーム
 キーノートセッションでは、アドバイザーの天野春果さんとコーディネーターを務めた大分合同新聞社の首藤誠一報道部編集委員が、地域とスポーツの関係や地域密着事業について意見を交わした。

 天野さんは川崎フロンターレでの自身の経験を基に、地域に愛されるプロスポーツクラブに必要なことを紹介。「精神論だが、ベースは熱量、誠実、謙虚な心を持つこと。これらが根幹にないとうまくいかない」

 具体的には、駅や商店街を歩き回って徹底的に調査し、地域性や社会性のあるアイデアを出して行政、企業とタッグを組む。長期プランを立て、同じ目標を持った多くの人を巻き込んできたという。「クラブの目標は高く設定する。選手はプレー以外のファンサービスも大切だ」と強調した。

 首藤編集委員が「住民や町がどのように変わったか」と質問。天野さんは「フロンターレという共通の話題でコミュニティーが広がった」と説明した。

 首藤編集委員は「クラブづくりは、地域のことを知り、仲間をつくるまちづくりに当てはまる」。天野さんは「クラブが人をつなげる役割を担うことが重要だ」とそれぞれ締めくくった。

【トークセッション】

熱心に耳を傾ける一般参加者
 スポーツの力とは、これからの理想像とは―。トークセッションには全出演者とアドバイザーが参加し、大切にしているキーワードや、目指すべき活動を示す「私のミライ宣言」をスケッチブックに書き込み、議論した。

 競泳の元五輪選手で、竹田市内で子どもの暮らしを豊かにする企画に挑戦中の小笠原順子さんは、限られた人だけではなく誰もがする、見る、支えるスポーツのあり方を示唆した。ミライ宣言には「ライフワーク」を示し「オリンピアンとしての経歴やお金に縛られず、暮らしに必要なことに人生を懸けたい」と夢を語った。

 スポーツの力を信じ、別府市内の短大で理想的な指導法などを研究する中山正剛さんは目的を明確に定めた上で、達成する方法を絶えず見直すことが大切だと力説した。問題発見や創造のスキルを持つ学生を育てたいとし、「AIに負けない人材育成」を提示。「そのためにスポーツをツールにしていきたい」と話した。

 母親の視点を生かし、宇佐市で総合型地域スポーツクラブを運営する宮崎啓子さんは、間口を狭めずに子どもたちを受け入れていると紹介した。活動資金を確保したり、新しい取り組みに理解を得たりする難しさも吐露。それでもやってこられたのは周囲のおかげと感謝し、「サポート」と書き込んだ紙を手に「今後は支える側になれれば」。

 牛尾洋人さんは元ビーチバレーボール選手の経験を土台に、大分県を拠点にデフ(聴覚障害者)ビーチバレーボールの普及に取り組む。ビーチバレーボールではサーブやスパイクが急激に変化するなど、逆風こそが有利という。競技の認知度の低さに苦しむが困難への挑戦こそが「自分の生きる道」と熱弁。将来の夢に「手話であふれる街、大分」を掲げた。

 サッカーJ1・大分トリニータのスタッフとして、サポーターが楽しめるイベントを手掛ける吉門恵美さんのキーワードは「多くの1回ではなく、唯一の1回」。学校訪問などのホームタウン活動は年間、数百回あるが、来場者にとってはその一回きりと説明した。今後はチームの成績にかかわらず、より多くの県民の生活の一部になると誓った。

 アドバイザーの天野春果さんは「大分はスポーツが身近な上、人材もそろい、恵まれている。スポーツ先進県になってほしい」とエールを送った。

参加者の声

企画の大切さ感じた
 大分市の無職、湯田国男さん(78) 自治会長をしていた頃、総合型地域スポーツクラブの規約作成に携わった。祭りや参加しやすいスポーツ大会などを催したが、子どもが集まる仕掛けを作ると、保護者も集まり活気づく。皆さんの話を聞き、企画の大切さを改めて感じた。若い人に向けて何をすればよいか参考になった。スポーツ教室など、新たな参加者を呼び込む取り組みを考えたい。

「行動に移す」印象に
 大分市の市職員、佐知かがりさん(50) 4、5年前、別府大分毎日マラソンに出場して3時間半を切ったとき「努力が報われた」と体がしびれるような感動を覚えた。子育てが落ち着いた今、スポーツのために何か自分にできることがないか探している。トークセッションで「行動に移すことの大切さ」がとても印象に残った。まずは大分国際車いすマラソンの運営ボランティアから始めたい。

当事者だけでは駄目
 大分市の県職員、梅木慎太郎さん(43) 今秋、大分で開催されるラグビーワールドカップ日本大会の運営準備に携わっている。天野さんらのアドバイスを聞き、スポーツを通じたまちづくりは、最終的に地域住民をどう巻き込むかが大事だとよく分かった。当事者だけで盛り上がっていては駄目。スポーツを地域に生かすため、レガシー(遺産)として何を残すのか考えていきたい。

◆出演者プロフィル◆

 吉門恵美(よしかど・えみ)さん(38)
 大分市出身。2006年に大分トリニータのホームゲームを初観戦し、雰囲気に魅了されて大分フットボールクラブに入社した。2019年1月からソーシャルアクション室でスポーツを通じた地域の課題解決を目指す。

 牛尾洋人(うしお・ひろひと)さん(44)
 兵庫県福崎町出身。2011年、ビーチバレーボール選手を引退し、デフビーチバレーボール日本代表監督に。17年、大分市に日本デフビーチバレーボール協会を設立し、理事長に就任。競技の普及に努める。

 宮崎啓子(みやざき・けいこ)さん(44)
 中津市出身。結婚を機に宇佐市に。市相撲事務局勤務時に子どもとスポーツの関わりに関心を持つ。2014年に総合型地域スポーツクラブ「わっしょいUSAクラブ」を設立し、クラブマネジャーとして奔走。

 中山正剛(なかやま・せいごう)さん(38)
 福岡県糸島市出身。福岡大スポーツ科学部勤務を経て2009年、別府大短期大学部初等教育科に。16年から准教授。学校体育授業や中学野球部での指導法を研究し、生徒・学生の社会人基礎力向上に力を入れる。

 小笠原順子(おがさわら・じゅんこ)さん(37)
 東京都出身。中央大2年時に競泳平泳ぎ代表としてシドニー五輪に出場した。大学卒業後に引退。2016年、家族と竹田市に移住し、地域おこし協力隊に。命・暮らしをテーマにしたまちづくりに取り組む。

 天野春果(あまの・はるか)さん(47)
 東京都出身。1997年に川崎フロンターレ入社。2017年から東京五輪・パラリンピック組織委員会に出向し、エンゲージメント企画部長。大会を盛り上げるため「あっと言わせる」事業を進めている。