2025101日()

(2)第3回「地域で育む、学びの力」

次世代育み、地域も成長

 先行きの見通しにくい世の中だ。自ら問いを見つけ出し、主体的に考える力を身に付けるヒントは地域にあるのではないか―。第1部のキーノートセッションでは、日本NPOセンター(東京都)の上田英司さんが現代社会で求められている学びの力や地域で受け入れる課題を紹介した。第2部のトークセッションでは、県内出演者は異口同音に「体験」の大切さを熱っぽく語った。地域の学びを大分でどう広めるか。地域の活性化にどうつなげるか。議論を深め、「ミライ宣言」を考えた。

【キーノートセッション】

トークセッションで、今後の抱負を語り合う出演者 
 キーノートセッションでは、アドバイザーの上田英司さんとコーディネーターを務めた大分合同新聞社の首藤誠一報道部編集委員が、若者や子どもたちが地域で学ぶ効果と課題について意見を交わした。

 首藤編集委員が「なぜ地域での学びが大切なのか」と問い掛けると、上田さんは「変化が大きく先が見えない社会だからこそ、主体的に解決すべき問題が何かを考えられる力が求められている」と指摘。学校で学んだ基礎学力や専門知識をうまく活用するために必要な社会人基礎力を身に付ける場として地域の重要性を説いた。

 地域の輪が広がり、地域を誇る気持ちが養われるという受け入れ側の利点も紹介。その上で今後の課題を「受け入れ側も互いに学び合おうという気持ちが必要。地域が主体的に問題を深め、一緒に成長していく姿勢が大事」と分析した。

 首藤編集委員は「地域同士、地域内の多様な連携が大切。ありきたりになるがよそ者、若者、ばか者の力が大事になってくる」。上田さんは「参加者をお客さま扱いしないことが、次の協働へ進む大事な一歩になるはず」とそれぞれ締めくくった。

【トークセッション】

事例を発表する中津東高校マーケティング部の部員
 自然、歴史・文化といった資源を生かす体験活動を通して、地域とつながり、将来を担う世代を育み、自らも成長する―。「地域の学び」を日々実践している出演者5人は、それが持つ力を熱く語り合った。

 独自の体験教育を進める佐藤陽平さんは「体験イコール大変。そんな概念を変えたい」と切り出した。同じ料理でも包丁を使えない子は手を切ってしまうように、体験活動ではその人に応じた課題が表れる。「便利で快適すぎると自分の力を使う必要がない。不便さを通して、子どもたちに自分を律する力が育まれる」と有益性を説いた。

 部活動の仲間と商店街での販売、商品開発などに汗を流す成重さりなさんは「他団体とのコラボ」を課題に挙げた。マーケティング部だけでの活動が多いが、市内の各種団体との連携を深める中で「大きく盛り上がるイベントができれば」と語った。地域活性化の一翼を担うのが目標という。

 学生と一緒に各地に出向き、地域連携活動に取り組む高見大介さんは「(人間力を養うには)時間、仲間、空間の三つの『間』が必要」と提言。田植えや稲刈りといった農作業を例に挙げ、「大変だし、自分の成長がすぐに目に見えるものではないが、それを続けることで仲間意識が芽生える」と、非効率性が持つ学習効果の高さを強調した。

 金成妍(キムソンヨン)さんは児童文学者・久留島武彦の業績を子どもたちに教えた経験から「へーっと思ってもらえる知的刺激を与えることが大事」と指摘。「何も知らずに記念館を巡っても、難しいと思われる。体験する前にいろいろ想像させると、ワクワクしながら見てくれるようになる」と、伝える側の工夫・努力が必要とした。

 水上スキーのインストラクターを務める中村大悟さん。全国各地の大学が毎年合宿をしており、「経済効果はもちろん、地域の盆踊りに学生が参加することもある」と紹介。不登校の子どもたちが体験に訪れることもあり、「学校に行けなくても、耶馬渓アクアパークには来てくれる。そういう子を元気にできる場になれば」と抱負を語った。

 会場からは、現代社会で進む人間関係の希薄化を踏まえ、「どうすれば壁を壊し、人とつながりを持とうと思ってもらえるのか」との質問も。アドバイザーを務めた上田英司さんは「他者とつながり、何かを一緒にやろうとしてもお互いを知らないとできない。まずは他者がどんな志向性か知るため、対話をすることが大事だ」と答えた。

【参加者の声】

若者目線、生かさねば
 玖珠町の元商店主、日隈昇三さん(83) かつて商店街づくりに汗を流した。知っている金館長が出演されるということで、童話の里をどう後世に残し続けていくかに関心があり参加した。地域がいつまでも残っていくためには、学びの場を通じて地域が若者と交流し、若者目線を生かしていかなければならない。若者が学ぶ場として、地域も本物であり続ける必要があると感じた。

ジャグリングもあり
 日田市の会社員、矢野順也さん(27) 高校から10年以上続けるジャグリングを普及させるため、若者の輪をつくりたいと考えていた。トークセッションはとても刺激になった。「地域の学び」の手法としてジャグリングもありだと思う。自分も大学時代に地域のイベントで披露し、住民の方と交流を深めた経験がある。今後は子どもたちにジャグリングの魅力を伝える活動に取り組んでいきたい。

参加者の思いを把握
 大分市の主婦、高宮真由美さん(34) 私も子どもたちを相手にしながら、地域を活性化させる取り組みをしたいと思っている。大切なのは自分たちのやりたいことを明確にするだけでなく、参加者の思いを把握することだと分かった。これから肩書や世代の異なる住民をつなげながら、環境づくりを始めるつもり。出演者からもらったヒントを生かして、一緒に行動する仲間を増やしたい。

◆出演者プロフィル◆

佐藤陽平(さとう・ようへい)さん(41)
 臼杵市出身。大手住宅メーカーや長野県内のNPO法人などを経て、2015年に一般社団法人ひとねるアカデミーを設立。臼杵市を拠点に、自然体験プログラムの提供や若手リーダー育成に取り組んでいる。

成重さりな(なりしげ・さりな)さん(18)
 宇佐市出身。中津東高校ビジネス情報科に入学し、マーケティング部に入部。2017年7月から部長を務め、17人の部員をまとめる。商店街での販売実習やカフェの企画運営で、学校では学べない実践を重ねる。

中村大悟(なかむら・だいご)さん(36)
 福岡県立花町(現八女市)出身。東京の会社勤務を経て、2006年、中津市に移住。学生時代に水上スキーの練習で通った耶馬渓アクアパークのインストラクターに。同市職員として利用者と地域の交流を促す。

金成妍(キム・ソンヨン)さん(39)
 韓国・釜山市出身。九州大学大学院留学中の2004年、久留島武彦の研究を始める。17年4月、玖珠町初の博物館として開館した久留島武彦記念館の初代館長に就任。久留島の功績や精神を町内外に発信する。

高見大介(たかみ・だいすけ)さん(37)
 兵庫県丹波市出身。2006年、日本文理大学(大分市)に職員として就職し、15年、工学部助教に転身。17年、人間力育成センター長。教育、研究を軸に地域連携活動を進める。専門は学生ボランティア論など。