2025522日()

「未来の学校へ~玖珠町学びの多様化学校の挑戦」④

2023年夏に参加したオランダの学校視察ツアーの様子。筆者は前列の中央。
2023年夏に参加したオランダの学校視察ツアーの様子。筆者は前列の中央。
  • 2023年夏に参加したオランダの学校視察ツアーの様子。筆者は前列の中央。
  • 学びの多様化学校で取り組んでいる「朝対話」の様子
  • 対話の時間に使用するカード。周りには『問い返し』による対話が生まれるよう質問カードを並べている
  • 学びの多様化学校で夏休み中にした哲学対話の研修。教員も円の用に配置した椅子に座って対話を経験しました。

 私は教員になって4年目です。そしてこの玖珠町立学びの多様化学校に希望してやってきました。なぜ私が、この学校を希望したかというと、小中学校や高校の公教育の在り方に疑問と漠然とした危機感があったからです。

■社会に対する当事者意識が育っていない

 ここ数年、ウクライナとロシアの戦争やパレスチナのガザ地区での戦争など、あちらこちらで人と人とが殺し合い、「自分と異なるものを排除する」ような悲しい現実があります。
 私はどこかで「戦争なんて過去の話だ。そんなことをしなくても、『話し合い』という手段で解決ができるまでに人類は成長しているだろう」と漠然と思っていました。でも現実は違いました。
 そして、ふと身近なところに目を向けると、「日本の若者の政治や社会への無関心、自殺率の高さがよく取り上げられています。これだけ社会では苦しんでいる人がいるのに 同じ社会の中で生きているのに 自分のことしか考えず、自分の周りの半径3メートルの人たちさえ良ければいいや。私には関係ない」と、どこかで思っていた自分に気が付きました。
 なぜ、ここまで社会に対して当事者意識が育っていないのか。それは、子どもたちに関わる公教育に課題があるのではないかと考えるようになりました。このままの教育では、みんなが幸せに暮らせる社会が崩れていってしまうのではないか―。他の国に打開策のヒントがあるんじゃないか!と思い、「世界一子どもが幸せな国オランダ」というキーワードに引かれ、昨年の夏、オランダの学校視察ツアーに参加しました。
 そこでよく耳にしたキーワードが「対話」です。オランダは移民が多く、そもそもの宗教や文化、バックグラウンドの異なる人たちが同じ国で生活をしています。そのような環境もあり、お互いを否定し合うのではなく「対話」を通じて社会をつくっていくという文化があります。

■そもそもお互いは「違う」という立場に立つ

 「対話」は多様な人が協力して社会をつくるための基盤となるスキルだと思います。とにかくオランダでは学校でも、職員室でも、家庭でも、大人でも、子どもでも「対話」をすることを大切にしていました。
 人と人とが「言葉を交わす行為」はたくさんあります。でも、よく調べてみるとそれぞれがもつ本質的な意味は異なります。
 例えば「会話」は明確なゴールをもたない日常的なコミュニケーションのこと、「討論」はあるテーマに対して「賛成・反対」に分かれて主張を戦わせること、「議論」は意見を出し合い結論を導くこと―だと思います。では「対話」とは一体、何でしょうか。
 「対話」の大きな特徴は、前提としてそもそもお互いは「違う」という立場に立つことです。誰かの発言に対して「良い」「悪い」の判断を付けることもしないし、自分と異なる意見を否定することもしません。「対話」において大切なことは、「違い」はあって当たり前で、その「違い」を楽しむことにあると思います。その前提に立った上で、あるテーマに対して意見を聞き合うことを「対話」と考えています。
 日本人の多くは、自分と異なる意見に出合った時にどこか自分を否定されたような感覚になるような気がします。「人格」と「意見」を切り離して考えることを学校では積極的に教えていないからです。だから、他者と議論することを嫌がってしまう。その背景には対話の根本的な「そもそも違いはあって当たり前だ」という前提を持つことができていないからでしょう。
 人間一人一人の個を尊重し、さまざまな価値観を共有する「多様性の時代」と言われている現代社会では、この「対話」の力がより強く求められていると感じます。

■「自分を知る」ことから始めた朝対話の時間

 この学びの多様化学校にも「対話」という時間を設けています。学校を「一つの社会」と捉えると、この学校のルール、過ごし方、どんなことをしたいかなどの課題については大人だけではなく、児童・生徒たちも意見する権利と責任が社会(学校)の一員としてある―と私たち教職員は考えています。
 1学期ではまずは「対話」の基盤を作ろうと考えました。▽自分が「どう考えるのか」「どう感じるか」を知ること▽伝えること▽相手との違いを知ること▽何を言っても安心できる環境をみんなでつくること―などがテーマです。
 そこで「自分を知る」ことから始めました。朝対話ではサークルになり、「今日の気分はどれ?」と聞きます。児童・生徒は、イラストとともに「たのしい」「ワクワク」「モヤモヤ」などの気持ちを表す言葉が書かれているカードを使って、今日の自分の気持ちに合うカードを選びます。そしてそれを選んだ理由を一人一人話してもらいます。
 初めは「え~自分の気持ちなんて分からん」「…なんて言っていいのか分からない」と子どもたちは困っている様子でした。
 しかし、続けていると話すことや選ぶことが苦手だった子どもも、徐々に自分の心の動きについて考える習慣がついたり、友達の話を聞いて「そんなことがあったんだー。少し悲しかったね」と寄り添うような言葉をつぶやいたりする子も増えてきました。
 慣れてくると、おしゃべりカードを使ってカードに書いてあるテーマについて対話をしたり、教室にある観葉植物からキノコが生えてきているのをみんなで見つけてキノコについて対話してみたり、新札が発行された日には新札についてネットで調べて対話してみたりしました。その日の朝の子どもたちの気持ちにも寄り添いながら、テーマに対して「自分(子ども側)がどう考えるのか」を意識して対話の時間に取り組みました。

■人と異なることを怖がらず、表現する勇気に

 1学期の取り組みを振り返って感じることは、人との違いを感じることが「面白い!」ということです。同じテーマについて考えているはずなのに、同じものを見ているはずなのに、「あなたにはそう見えるんだ! そう感じるんだ! そういうところを不思議に思うんだ!」と物事の見方がたくさんあることに気づかされます。
 大人も子どもも、お互いの違いを「価値あるもの」と感じれるチームや学校をつくっていきたいです。それぞれの「違い」が結集すると、どんなすごいものが生まれるんだろう!?と私はワクワクします。全員が「違って当たり前」の土台に立ち、対話をすることを“歓迎”したい。どんな意見も、受け入れてもらえる安心感があれば、人と異なることを怖がらずに自分を表現してみようとする勇気につながります。
 まだまだこの学校はスタートしたばかりです。これからの社会や学校に「対話」の文化をつくるためには、子どもだけではなく、まず大人の私たちが「対話」の本質を理解し、実践すること大切です。
 まさしくいま、多様化学校の職員室では「対話」することが求められています。さまざまな世代、経験、価値観をもった教員同士が、協働しながら新しい学校をつくるために奮闘しています。話し合うときは、サークルになって座り、時には笑いながら、時には真剣に話をしています。
 職員室や空いた時間の中で「対話」を通じて自分を知り、お互いを知り、全員で「子どもをまんなか」に位置付けた“新しい”公教育の在り方を、試行錯誤できる教職員集団でありたいです。

 ×  ×  ×

 今年4月に開校した「玖珠町立学びの多様化学校」。新しい学校のいまを、学校に関わる職員らがリポートします。

Profile

 わき・こなぎ 1995年大分県日出町生まれ。3人兄妹の真ん中。父は高校教員。母の影響で小学2年生から大学4回生までバドミントンに打ち込む。大学卒業後、2020年から教員。昨年度は全校児童1000人超の大規模小学校で4年担任と特活主任を担当した。
 今の公教育の在り方、働き方に課題を感じ、オランダの学校視察へ参加。大人も子どもも幸せな学校の在り方を模索したいと思い、本年度から、学びの多様化学校で勤務している。

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