【Gateインパクト】お酒の魅力探訪記

 大人の階段を上ったときからお酒が友達で、週末はとりわけ良き仲間になってもらっている。

 もちろん関係は近すぎず遠すぎず、いや、正直にいえばかなり近くはあるけれど、お互いに息苦しくならない程度には距離を保っているつもりだ。

 私は不惑を過ぎたサラリーマンだ。付き合いが四半世紀を迎えた最近は、酒の何がそんなに魅力なのだろうと考えたりすることもある。味か。香りか。色合いか、胃腸の動きを活発にしてくれる、あの心地いいグルグルの感覚か。どれか一つに絞り込むのは難しそうだが、何かこう、雰囲気を言い当てるいい言葉でも出てこないかなあなどと思ったりする。
 
 先日の週末、仕事で「OITA SAKE FESTA」という地酒のイベントを取材した。これはいい機会だ。記事を送稿した後、私はお酒の魅力を解剖するための一人旅を始めることにした。どうしてお酒って、おいしいんだろう。楽しいんだろう。

 先にお断りしておくが、この記事では個別の銘柄についてリポートはしない。焼酎、日本酒、ジン、いろんな素晴らしい地酒を少しずつ味わわせていただいたのだが、今回は「お酒」そのものにフォーカスしているため、ご理解をたまわりたい。

 さて、私はテーブルの1席に腰を据えた。今日は、むやみに動かないと決めていた。いつもは記者の習性で来場者などに話を聞いてはメモを書きためていくのだが、今回は最小限に抑えることにした。とにかく一杯一杯とじっくり向き合おう。会場には400人が集結しており、パンパンに温まった空気感も吸い込むことにした。

 「お酒、いつもは何を飲まれますか」

 たまたま隣り合った会社員の男性が話しかけてくれた。そうですね、私はもともと、ビール党です。最近は焼酎も欠かせませんけどね。「私もビール、好きなんですよ」。あら、そうなんですか。距離が、縮まった。

 男性は、オススメの銘柄を私に尋ねられた。そこで会場に出ている16蔵元の一つを紹介した。男性が席を立ち、ブースに向かうと、私も気になっていた別の蔵元へ旅立った。

 テーブルに戻り、早速お酒さんに密着取材だ。小型カップに入った日本酒の2銘柄を、舌先、鼻孔、瞳でまずは体感リサーチ。湧き水のように澄んでいながら、その味わいも香りもまったく異なるぞ。甘い、辛いといった択一式では言い表せない奥深さだ。

 「これ、本当においしい」

 隣の男性がテーブルに戻ってきていて、私の薦めた一杯に目を丸くされた。でしょ。もう説明、いらないぐらいですもんね。まるで私まで褒められたような錯覚に陥り、気をよくしてもう1銘柄、ご紹介した。

 私も私で、もう1銘柄、気になっていたブースへ行った。こちらも日本酒。むおお、先ほどの2銘柄よりも甘味が深い。舌の奥がとろけそうな柔らかさ。これは好みだ!

 テーブルには男性も戻っていた。どうですか、私の勧めたもう1銘柄。「うん、こちらもおいしい」

 ただ、私は気づいた。男性の瞳の輝きが、最初の1銘柄のときほど強くはないことを。最初のほうが、好みに合ったのだろう。ここであらためて気づいた。お酒のおいしさは、それを口にする人それぞれによって変わる。人にもお酒にも個性がある。お互いの相性が合って初めて、「おいしい」の相乗効果が生まれる。言い換えれば、私が「おいしい」と感じるのも正解。誰かが別の銘柄で目を丸くするのも正解。どれが間違いということは、ない。変幻自在。

 会場はジョークや笑い声で沸いていた。色も味もなく、ただ「活気」としか言い表せないこの雰囲気も、お酒が媒酌人となって生み出す独特のエネルギーなのだろう。

 ブースを回っていると、声をかけられた。「あなたを探している人がいる」

 10年ほど前、仕事でお付き合いをさせていただいた方が、私の来場を知ってくださったらしい。その方のテーブルにうかがった。「お久しぶりです」

 お互い、お酒のカップを片手にしていると、10年の開きが一気に縮まってくる。自然と思い出話に花が咲く。「私は最近、定年退職しましてね」。近況もうかがい、元気な様子にこちらまでうれしくなった。「花の60代をお過ごしください」と伝え、テーブルを後にした。

 宴もたけなわ、会場がホッカホカにあったまったところで、お開きとなった。名残惜しい、この雰囲気もたまらない。テーブルで隣に居合わせた男性ともお別れのあいさつをする。初めて会ったにもかかわらず、もう何年もお付き合いしているような身近さを感じた。男性の気さくな人柄のおかげだろう。それと、ビール党つながりもあるのかな。また、お会いしましょう。

 会場は5階にあった。エレベーターに、お互い見知らないはずの顔ぶれがひしめいていた。冗談も飛び交った。「今から何する?」「うーんと、結婚式」。吹いていいのか、ウルっとしていいのか。虚実ないまぜのトークが、体も心も温めてくれた。

 翌日は、軽い二日酔いで目が覚めた。これもお酒にはつきものだ。

 よくよく考えた。お酒の魅力って、なんだろう。

 お酒とは、人と人とをつなげてくれる、不思議な触媒と言えそうだ。それがあることで、笑い、喜び、元気が自然と生まれ、居合わせた面々の心がいつしか通じ合う。自分と合う相棒(お酒)を探して、程よく付き合っていけば、これほど楽しくありがたい存在はないだろう。

 たまたまお酒を愛する体に生まれた人間として、これからもうまく付き合い、人生を彩り豊かにしていきたいと思った。

 良い酒、良い人、良い場に出会うと、人生はいっそうカラフルになるはずだ。

(K)

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