(前編から続く) 涼ちゃん(藤原涼太郎さん)、キャプテン(古岡茎太郎さん)、那須君(那須優歩さん)は大分県中津市耶馬渓中の3年生だった昨年の夏休みに3人だけで自転車旅に出た。1週間の日程で本州と四国を結ぶしまなみ海道を渡り、耶馬渓に戻る行程。ゴール目前で2人はリタイアしたが、3人は大きな挑戦をやり遂げた。▶「自分たちだけで」自信に 「大人がいなくても自分たちだけで行けた」。3人の中には自信が生まれた。夏休みが終わると受験生。特別な旅の経験は、次に進む道へ、それぞれの背中を押した。 ずっとテニスを続けてきた涼ちゃんは、テニスができる高校に行きたいと思っていた。テニスの先輩もいる地元の強豪中津東高に行き、インターハイ出場を目指すことを目標に据えた。 キャプテンと那須君は県外の学校を目指すことを決めた。 キャプテンが選んだのは徳島県神山町にある県立城西高神山校。人口約5千人の山村でありながらユニークな地域おこしで移住者が集まる、全国的に有名な町にある農業高校だ。入学すれば町営寮から通うことになる。寮では畑で野菜を育てたり食事を作ったり、自分たちで生活を営む。前から気になっていた学校だ。旅の後、詳しく調べたキャプテンは「自分に合っている」と感じ、気持ちは固まった。 那須君は、「ものの仕組みを考えるのが面白そう」と高専に絞って志望校を検討。福岡県にある久留米高専の電気電子工学科を目指すことにした。いろんな学校のホームページをのぞいていたら、久留米高専がとりわけ見やすく印象に残っていた。制服がないことに魅力を感じた。難易度の高い学校への入学を果たすため、日田市内の塾に通って勉強時間を増やした。▶友達が「自分」をつくってくれた 10月からは3人で毎週木曜日に集まって勉強会を開いた。それぞれが自分のペースを崩さず入試に臨み、合格をつかむことができた。進路が決まると、ご褒美の自転車旅。3人だけで福岡へ卒業旅行に行き、中学生活を締めくくった。 遠くにいてもスマホでつながる時代。いつでも集まれそうな感じもする。もうすぐキャプテンと那須君が耶馬渓を離れる実感はまだ持てない―。そんな気持ちの中で引っ越しが迫る3月末に、那須君はかみしめるように言った。 「人は周りにいてよく話す人の影響を受ける。『自分』という存在の半分は友達がつくってくれているのかも。中学に入学した時、涼ちゃんが話しかけてくれなかったら、僕はずっと本ばかり読んで自転車旅行に行くこともなかったかもしれないな」。涼ちゃんやキャプテンのような友達がいたから自転車で旅ができ、そして今の自分がいる。 耶馬渓と徳島と久留米。今年4月から別々の場所で新しい生活が始まった。この先、迷うことも足が止まることもあるだろう。でも少しずつでも前を向いて進んでいけば、ゴールに近づいていくことを3人は知っている。友とペダルをこいだあの旅が教えてくれたから。