イッセー尾形の一人芝居に異変 『妄ソー』というカバーで超自由

▼イッセー尾形さんといえば一人芝居、一人芝居といえばイッセーさん。およそ40年も前からやっているその舞台に異変が起きた(ように見えた)。イッセーさん自身がすこぶる楽しそうなのだ。前はつまらなそうだったわけではないから、とても細かいことだ。「1度現場を離れて戻ってきたら、すごく楽しんでプレイできるようになりました」といったやつかもしれない。

▼開演冒頭、ショックなことが起きた。6月最後の土日、東京・練馬文化センターの小ホール(592席)で開かれた一人芝居公演『妄ソー劇場 文豪シリーズ その2』。真っ暗な状態からステージの照明がパッとつき、コンビニ店員に扮したイッセーさんが照らされた瞬間、なんと客席から「待ってました!」と男性1人が声を上げ、つられて拍手もわき起こった。 

▼筆者は約30年前からイッセーさんの舞台に通い、東京だけでなく札幌、大阪、福岡でも見てきた。冒頭から演技中、ネタとネタの間に舞台左端の客席から見える場所で着替えて新たな別人へと変身する間も、お客さんが声を掛ける事態に出くわしたことは一度もなかった。

▼練馬でのイッセーさん。「待っていたとはありがてえ」と歌舞伎役者の決まり文句はもちろんなく、声や拍手に反応しなかった。だが驚いた感じもない。筆者は「ああ、こんなヤンヤ、ヤンヤな雰囲気で見たことはないけれど、これもイイかもしれない」と口角がむくむくと上がった。

▼イッセーさんは元々、演出家の故森田雄三さんとのタッグで一人芝居をつくり上げ、国内外各地で公演を続けていた。公演の多くは題して「都市生活カタログ」。2012年8月、舞台活動を「休眠」。事務所から独立してフリーとなり、映像作品に軸足を移した。

▼2015年、休眠を解き、『妄ソーセキ劇場』という題で一人芝居を再開。尊敬する夏目漱石の作品に出てくる人物を題材に、妄想で膨らませて演じる。やがて、他の文豪にも幅を広げてきたのだが、筆者は、休眠明けの試みが始まってからは劇場に足を運べたことがなく、今回の練馬が『妄ソー』初観劇となった。

▼佐多稲子のプロレタリア文学を原案にした『コンビニストライキ』、サルトルの『嘔吐』から妄想した『謝罪記者会見』など。勝手な妄想で飛躍が大きいほどおかしい。太宰治『斜陽』から生まれたネタは「パブ 斜陽」のママ。ギター弾き語りでママが最後にやった歌なんか、サイコーだ。

▼休眠の前後で、芝居自体が大きく変わったとは思わない。ただ、休眠前はもっとネタも気持ちも研ぎ澄まし、張り詰めているように見えた。一方、休眠後は、完全オリジナルではなく「文豪をカバーする」というアプローチが、イッセーさんの肩の力を抜かせているように見える。今回のチラシには「(カバーは)歌の場合、歌詞はほとんど変えないと思いますが、僕の場合はほとんど自由です。もう原型をとどめていません(笑)。要は好きにやってます」とあった。

▼川端康成『浅草紅団』に至っては、イッセーさんいわく、原作から借りたのは「浅草という場所とその空気感だけ(笑)」。紙芝居屋さん風情のおじちゃんが、自転車の荷台に口だけ隠れない手作りのお面をいっぱい並べ、1人で10役以上(?)をこなす。このネタは得意のアドリブで永遠に続けられるに違いない。さながらjazz。かつてはやらなかったような舞台背景の使い方も飛び出した。演じているイッセーさんが思わず、素で笑ってしまったような瞬間が2、3度。昔だったら客の私は少し冷めたかもしれないが、周りのお客さんと一緒に、噴いて笑った。こんなに自由なイッセーさんを見たことがない。

▼約1時間40分、6つのネタを終えたイッセーさんは、客席を見渡し開口一番「ああ、楽しかった」。満面の笑み。今年はまだ、10月25日~27日に京都府立文化芸術会館、11月1日~2日に東京・有楽町朝日ホールでも『妄ソー劇場』公演がある。昔からのファンの方も、初めての方も、足を運んでみてはいかがでしょうか。

(宮崎晃の『瀕死に効くエンタメ』第125回=共同通信記者)

2019年7月11日

エンタメ記者コラム

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