【Gateインパクト】書評~大分合同新聞読書欄から 長野浩典著「明治の大獄 尊王攘夷派の反政府運動と弾圧」

 長野浩典著「明治の大獄 尊王攘夷派の反政府運動と弾圧」
(弦書房・2310円)


 明治維新期の時代のうねりが書かれた本書を手にしたのは、著者が大分合同新聞のコラム「灯」の同人であることと、私の生まれ育った大分市鶴崎が舞台だと知ったからだった。

 「鶴崎の歴史に詳しいでしょう」と問われれば落第点である。少年期の記憶は「熊本藩の飛び地」「儒学者・毛利空桑(くうそう)を知っている」「鶴崎小は毛利が教えていた学校『成美館』の流れをくむ」ことくらいしかなく、以降も知識はアップデートされていない。しかし、鶴崎が激流の中にあったことが分かり、平和だったとばかり思い込んでいた地元の歴史に、血の匂いを感じるようになった。

 鶴崎は尊王攘夷(じょうい)派の拠点だった。本書の心臓部となる史実である。長州藩の奇兵隊を模した熊本藩の軍隊「鶴崎有終館」という組織が存在し、毛利空桑が設立や運営に大きく関わった。「人斬り」と恐れられた高田(こうだ)源兵が率いていた。

 興味がわき、跡地を訪ねると、鶴崎橋の西側たもとに標柱を見つけた。毛利空桑記念館や鶴崎小から歩いて10分ほど。政府転覆を企てた軍がそこにあったとは新鮮な驚きだ。

 熊本藩士族の中村六蔵は鶴崎有終館での密偵殺害をはじめ、多くの事件に関わっていた。長州を脱走して追われる身だった大楽源太郎は毛利と交流があり、鶴崎有終館がかくまった。毛利、高田、中村、大楽の4人は、著者が追った重要人物たちであり、数々の事件や出来事からは殺伐とした緊張感が伝わってくる。

 さて、江戸幕府の大老・井伊直弼(なおすけ)が尊王攘夷派を弾圧した「安政の大獄」は皆の知るところだ。約100人が斬首などの処罰を受けている。一方、明治政府による尊王攘夷派の弾圧は、300人超が処罰されているのに一般的には知られておらず、事件名もない。

 これを「明治の大獄」と名付けるに至った理由は前書きや最終章に記されている。動乱の時代の鶴崎を読み解き、著者の思いに「なるほど」とうなずく。歴史的名辞となってほしい。
(下川宏樹・大分合同新聞社編集局長)

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