大分県内の感染症流行状況を聞くため、県福祉保健部をたびたび訪ねる。医師でもある池辺淑子健康政策・感染症対策課長からは、取材のたびに思わず誰かに話したくなるような健康のミニ知識が飛び出す。この日も、本題に入る前の雑談で耳にしたのは「座る時間が長いと寿命が短くなる」という話だった。
「座る時間が長いほど健康への影響が大きい、という研究があるんです」
デスクワーク中心の生活では、一日に何時間も椅子に座って過ごす人は珍しくない。座っている間は筋肉の活動量が減り、血流も滞りやすくなる。一方、立っているだけでも体幹や脚の筋肉は自然に使われるという。「だから、できるだけ立つようにしているんですよ」。そう言われると、取材中も何となく背筋が伸びる。
帰り際には、もう一つ意外な話を教えてくれた。
「感染対策は、うがいより手洗いですね」
子どもの頃から「外から帰ったら、手洗いうがい」と教えられてきた身としては少し驚いた。もちろん、うがいが無意味というわけではない。ただ、感染予防の基本は、手に付着したウイルスをせっけんで洗い流すこと。手を介して目や鼻、口に触れることで感染するケースが多いためだという。
長年の習慣を否定されるようで少し戸惑ったが、「まず手洗い」というシンプルな原則は覚えておこうと思った。
さらに、この時季らしい話題もあった。
暑い日はエアコンをつけるが、閉め切った部屋では空気は循環するだけで入れ替わらない。だからといって窓を全開にすると、せっかく冷えた空気が逃げてしまう。
「対角線上の窓を10センチくらい開ければ、空気の流れができますよ」
なるほど。大きく開けなくてもいいらしい。感染対策と熱中症対策は相反するものだと思い込んでいたが、少しの工夫で両立できるという。
取材では、記事に載るのは流行状況や患者数、注意喚起のコメントがほとんどだ。でも、担当者との何気ない会話には「今日からやってみよう」と思える話が案外転がっている。
1時間に1度立ち上がる。帰宅したら、まずせっけんで手を洗う。窓を10センチだけ開けてみる。
どれも特別な健康法ではない。でも、健康づくりとは案外、こうした小さな積み重ねなのかもしれない。
「次の取材では、立ったまま話を聞いてみようかな」
そんなことを考えながら県庁を後にした。
(衛藤知愛)