【Gateインパクト】書評~大分合同新聞読書欄から 細田昌志著「格闘技が紅白に勝った日 2003年大晦日興行戦争の記録」

 細田昌志著「格闘技が紅白に勝った日 2003年大晦日興行戦争の記録」
(講談社・2200円)

 大みそかに民放の複数のチャンネルで格闘技を生中継していた時期があった。NHKで紅白歌合戦を見ながら家族だんらんの時間を過ごすという日本の文化が、これによって崩れたと言える。わが家は、何が何でも格闘技を見たい私が自宅に残り、小林幸子の度肝を抜く衣装や郷ひろみを見たい妻が実家に行くという分断の夜となっていた。
 格闘技を見るのが特に大変だったのは2003年。一つの大会は録画し、その他はテレビのリモコンを片手に構えながら常にパチパチ。試合開始後、わずかな時間で終わる「秒殺」もあるため、気が抜けない。
 忘れられない試合の最高峰はTBSが中継した「K―1ダイナマイト」のメイン、ボブ・サップ対曙太郎だ。衝撃の結末に、アリーナの観客や日本中の視聴者が身を乗り出して熱狂した。サップの右ストレートであごを打ち抜かれた曙が、わずか1ラウンドでマットに沈んだのである。つぶれたカエルのように曙がうつぶせにダウンしたシーンは、あまりにも有名だ。
 「感動と興奮。すごい年越しだ」というのは見る側の思い。実は裏側では、憎悪、裏切り、トラブル、つぶし合いといった、大分弁で言うならば「よだきい」事柄が渦巻いていた。本書が追っているのは2003年大みそか3大興行。裏舞台の人々は降りかかる災いを排除しながら、わが興行をナンバーワンにと奔走する。その執念や忍耐強さは見習うべきところがある。
 曙をリングに上げるための交渉と話術、なりふり構わぬ極秘失踪工作は本書のハイライトの一つで、ゾクゾクする。ビッグビジネスを成功させるためなら何でもやるという常識外れの発想には驚くばかりだ。
 サップ対曙が行われていた時間帯は、テレビ史上初めて、紅白歌合戦を裏番組(K―1)が視聴率で抜いた歴史的4分間だった。常勝NHKをついに倒した歓喜の瞬間は、多くの障害をクリアし、ようやく結果にたどり着いた「調査報道」の達成感とオーバーラップする。
 (下川宏樹・大分合同新聞編集局長)

最新記事
【Gateインパクト】サラリーマン歩き旅⑭パラレル世界?
【Gateインパクト】主役をつくる人たち
【Gateインパクト】村山元首相の日記 95年1月19日、被災地に入り「想像を絶する被害」「初動が大切と痛感」
【Gateインパクト】村山元首相の日記 95年1月17日、阪神大震災発生「やれることは何んでもやりつくしてほしい」
【Gateインパクト】旅するための読書(3) グレゴリー・ケズナジャット 『言葉のトランジット』