遅ればせながら、放送中のテレビドラマ『銀河の一票』が面白い。与党幹事長の父親の秘書として自身も野心を抱く主人公(黒木華)が突然父に切り捨てられるが、政界と無縁のスナックママ(野呂佳代)にほれ込んで東京都知事選に担ぎ出す―というなかなか荒唐無稽な設定だ。
政治記者の末席にいたからではないが、選挙、政界を題材にしたドラマは気にかけている。ただ、リアリティーに欠かせないディテールの粗さや現実離れした展開に冷めてしまうことが多い。「選挙エンターテインメント」を掲げる『銀河』は、周辺要素をそぎ落としてテンポよく進みつつ、選挙の仕組み(特に東京都知事選の特異性)や政界の裏側をうまく織り交ぜて見せてくれるので楽しい。
みんなが安心できる社会をつくりたい。東京モデルをつくり、日本中に広げたい―。敵役も含めて各登場人物が政治に対する思いがあり、実現のため立ち上がる。青臭いとは思いながらも共感できて胸熱な場面があるのだ。
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同じ「知事選」だが、2003年の大分県知事選を思い出した。6期24年続いた平松守彦県政の次を決める選挙。前任者と同じ通産官僚出身、事務次官まで務めた広瀬勝貞氏の独走かと思われていた告示の1カ月半前に出馬表明したのが吉良州司氏だった。東大卒、大手商社を辞めたばかりの44歳。一部で知られた人材だが、大多数の県民には「誰?」だった。
ところが与党や主要経済団体の推薦、支援で盤石の広瀬陣営に対して、「官か民か」の分かりやすいキャッチフレーズを掲げて大きな支持のうねりをつくり出した。もしやと思わせたが、最後は約2万6千票差で惜敗した。
吉良氏がよく唱えていたのが「熱心な素人は玄人にまさる」。陣営に政党・労組関係者、議員はいない。事務所や集会には、吉良氏の親族に縁がある人も含めてさまざまな属性の人たちが詰めかけ、さらに周囲へ支持を広げていった。昨今の選挙戦の必勝キーワードとしてよく挙がる「熱伝導」が起きていたのだろう。おおよそ選挙に関わったことがないような高齢女性が街頭でたった一人、懸命に政策ビラを配っているのを目にしたこともあった。
その舞台裏に、ボランティアの中心メンバーがいたことも見逃せなかった。多くが労働運動や選挙運動の実務経験者。「素人」とは言えない面々だが、彼らが戦略を立て、陣営を回していた。後から「七人の侍」とうそぶく声もあった。
『銀河』では、主人公の陣営に当選請負人の元国会議員秘書、突然表舞台から消えた改革派女性市長、政治スキャンダルで稼ぐユーチューバーと個性的な同士が集結。手練手管を駆使して、無名の候補を勝負の土俵に押し上げようとする。四半世紀近く前の光景と少し重なるような気がした。
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吉良氏が当選していたら県政界の風景は激変していたはずだ。他方、広瀬氏からすると薄氷を踏むような勝利が、行財政改革の断行をはじめとした県政転換を進める下地になったと思う。吉良氏は余勢を駆って衆院議員に転じ、2009年の政権交代後は民主党政権の一翼を担った。時は流れ、当選7回を重ねたが、高市“推し活”旋風が吹き荒れた2026年2月の選挙で落選。スパッと政界引退を宣言した。個人的には、県政界に一つの区切りが付いたなと感じた。
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そんな記憶も呼び起こしつつ、毎週の展開を楽しんできた。いよいよ最終盤。都知事選の結末はいかに。一筋縄ではいかないラストが待っているのではと期待している。(本)
(『銀河の一票』はTOSテレビ大分では火曜日深夜に放送)