【Gateインパクト】「100分de名著」プロデューサーが読書語る 中津市出身の秋満吉彦さん

対談する秋満吉彦さん(左)と鈴木結生さん=5月19日、福岡市の西南学院大

 読書は人生の背骨を支えてくれた―。NHKEテレの教養番組「100分de名著」のプロデューサーで、中津市出身の秋満吉彦さんが、読書についての講演会(5月19日・福岡市の西南学院大)に出演した。読書との出合いや読書から得たことなど要約を紹介する。

 ◆同級生の読書感想文がきっかけ
 秋満さんは幼い頃、手塚治虫などの漫画は読むが活字の本は読むことがなかった。読書体験が始まったきっかけは小学校6年の朝礼。県の読書感想文コンクールで金賞を受賞した同級生の女の子が、全校児童の前で発表した「アンネの日記」の感想文だった。日記は第2次世界大戦中、ナチスから逃れて隠れ家生活を送ったアンネ・フランクが13歳から2年間にわたって書いた。周囲に友人がいなかったアンネが日記帳を友達にしていたことに感動した。
 「とてもいい感想文だった。こんなに素晴らしい本が世の中にあったのかと驚いた。本に出合っていた同級生がうらやましく、くやしい」と感じた。
 その日、学校から自宅にすぐに帰り、読書家だった父の本棚からカフカの「変身」を手に取った。主人公が朝起きたら毒虫になっていたという冒頭の展開に心をわしづかみにされた。
 「変身」には難しい内容もあり、それまで読書の習慣がなかったので続けて読むことは難しかった。「この本を読めなかったら一生、本は読めないだろう」と思い込み、本に「カフカ君」と名前をつけてポケットに入れ毎日5分だけ読むようにした。その結果、4カ月かけ読み終えた。
 「(読破に)快感があった。いつか訳の分からない本の意味も、分かるようになるだろう。そう思うとわくわくしてきた」と、自身の読書人生が始まった。 

 ◆発想を転換し、メディアの道へ
 大学院を出た後は研究者になりたかったが、研究への確固たる自信が持てずに断念。その後の就職活動で行き詰まった。そこで、第2次世界大戦中にナチスによって強制収容所に送られた体験を記したフランクルの本「夜と霧」に出合った。
 極限状態にいたフランクルは「(自分の)人生に意味を問うのではなく、人生から(自分が)意味を問われていた」ことに気づいた。そして「(自分が何をしたいかではなく)僕は世の中や社会から何を問われているのだろう」と発想を転換した。
 そこで、秋満さんは人の話を聞き出すことが得意だった自身の長所を生かすことを決めた。「(自分の)視線が変わった瞬間に爆発的な力が発揮できた」と、メディアへの就職につながった。

 ◆優しい気持ちを消さなくてもいいんだ
 入局したNHKではプロデューサーとなった。30代後半に勤務した長崎放送局で原爆被害者の番組を作るときに行き詰まった。「被爆者が(テレビに出ると)差別の視線にさらされると思い、取材が怖くてできなくなった。上司から駄目の烙印(らくいん)を押された。
 当時、障害のある息子を主人公が受け入れる内容の「新しい人よ眼ざめよ」(大江健三郎)を学生時代以来に再読していた。「取材することで被爆者を傷つけてしまうと感じていた自分の素直な心を押し殺してしまわなくてもいいんだ。自分の中にある無垢(むく)で優しい気持ちを殺さなくていいんだ」と理解して、なんとか乗り越えることができた。「この本を読んだことが、人生の背骨を支えてくれた」

 ◆読書は自分の体に異物を埋め込むような体験
 明治の思想家、岡倉天心(1862~1913)が書いた「茶の本」には大きな影響を受けた。その中に自分は空っぽである「虚」という考えがある。
 「100分de名著」の仕事は最初から順風満帆ではなかった。「自分はプロデューサーで立場が上だから(番組を)自分色に染め上げたかった。だから、つまんない番組になっていた」
 あるとき「虚」を思いだし、自分と異なる意見を排除することをやめた。受け入れるようになると、自分の計算外のいろんなことが起き始め、番組は面白くなってきた。
 「読書は、自分になかった“異物”を体にねじりこむような体験となる。読んだ直後には、訳が分からない本の内容が、あるとき発芽することがある。体が拡張され、今までにない自分になるような体験になる。それが読書の醍醐味だ」

 × × ×

 講演会は西南学院大法学部の授業「社会連携科目A(ジャーナリズム)」(担当・田村元彦准教授)の一環で開かれた。秋満さんと芥川賞作家の鈴木結生さん(同大大学院修了)による「読書に駆り立ててくれた『懐かしい』本」と題した対談形式だった。

 プロフィル
 あきみつ・よしひこ 1965年生まれ。中津南高卒、熊本大大学院文学研究科倫理学コース修了後、1990年にNHK入局。ディレクター時代に「BSマンガ夜話」「土曜スタジオパーク」「日曜美術館」「小さな旅」などの制作を担当した。現在はNHKエデュケーショナルに所属している。

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