【Gateインパクト】サラリーマン歩き旅⑦切ない交通標語

 日がな一日歩く旅をしていると、ほぼ毎回見かけるものがある。道端の交通標語だ。

 相当大きな立て看板に、例えば「飲んだら乗れん」といったメッセージを記し、ドライバーに交通安全を呼びかける。語呂が効いていたり、方言を交えていたりして、思わず「座布団1枚!」と言いたくなる秀作も多い。

 中には、地元の悩み事がのぞけて切なくなる作品もある。

 2年前、中国地方のとある山間地を旅した時のこと。私は小集落と里山との間を走る田舎道をひたすらテクテク進み、のどかさに身も心も浸っていた。新緑の季節。この上ない爽快感で一日の旅を終えると、森の中のキャンプ場でテントを張った。

 周りのキャンパーたちもすっかり寝静まった深夜1時過ぎ。突然、けたたましいエンジン音が辺りに響き渡った。

 ブロロ、ブロロ、ブロロロロロ・・・

 うわー、暴走族か。こんな山間地にも現れるとは。お願いだから、さっさとどこかへ去ってくれぃ。

 テントの中で何度か寝返りを打ったが、ブロロロは去る気配を見せない。それどころか爆音をグオングオンと高めながら、キャンパーたちを威圧するように近くを走り回っている。振動のせいで、とてもじゃないが眠れない。

 一体何台いるのか分からない。そんな連中が、家族連れも多い宿泊客の安眠を妨げている。段々腹が立ってきた。まだブロロロを続けてきよったら、地元の警察に連絡しよう。

 もう辛抱ならん!とスマホを手にしようかという頃になり、爆音連中はようやくキャンプ場付近を離れた。プロロロ・・と音が小さくなり、心底ほっとした。この間、約30分。すっかり目が覚めて、その後はよく寝付けなかった。きっと周りのファミリー客も同様だったろう。かわいそうに。

 翌日。それでも晴れ渡った5月の空に元気をもらい、次の集落へと出発した。田舎道をずんずん進む。と、道沿いに大きな立て看板を見かけた。そこには、こう書かれてあった。

「〇〇(集落の名前)では 爆音落とせ! 命は落とすな! 安全に!」

 ・・こんな刺激的な交通標語、見たことないぞ。折しも私自身がその爆音を体いっぱい味わったばかりだったので、訴えはぐっと響いた。

 それから1時間もたたない頃。今度は、前方の小山から聞き覚えのある振動音が鼓膜を震わせてきた。あ、昨日の組や、標語の連中や! いったい、何人組の集団なのか。

 ブロロロロロロ・・

 大地を揺らす豪快なエンジン音とともに現れたのは、意外や意外、1台の中型バイクだった。2人乗り。まさか、この2人で大勢のキャンパーにあれだけ迷惑をかけていたのか。

 すれ違いざま、私は恐る恐る視線をバイクに向けた。どんな怖い顔をしていることか。

 驚くほどの童顔だった。特に後部座席の方は、頬がまだちょっぴり赤くて、かわいらしい坊やのようだ。

 拍子抜けした。会ったこともない、彼らの両親の悲しげな顔が浮かんだ。私は去り行く2人に心の中で叫んだ。

 「かあちゃんが、泣いちょんぞー!」

 なんだか私も保護者のような気持ちになり、切なくなった。

 遭遇した1句の標語は、リアルな体験とも、たまさか合わさり、強烈な思い出として残っている。バイクの2人が爆音から卒業し、立派な社会人に成長していることを祈っている。

(旅師X)

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