【Gateインパクト】「あのころに卍固め」スピンオフエッセー ダイナミック岐阜新聞

棚橋弘至選手の引退試合を報じた1月5日の岐阜新聞1面を読む大分合同新聞の記者

 伝えたいことは何か。新聞社は、毎日、数千本単位で流れてくるニュースの中から「これだ」というものを選択し、明日の新聞を作る。その際に必要なのは、ニュースを見極め、知識や感覚で扱いの大小を判断する力、いわゆる「価値判断」だ。外回りの新聞記者はもちろんだが、紙面を制作する整理記者に、よりその力が求められる。
 日々、何度も開かれる編集会議では、ニュースの中身や紙面展開について、取材部門と制作部門が議論を重ねて新聞を作っている。災害、大きな事件事故、混乱する政治問題、国際紛争など、万人が注目する出来事がある日は、どの新聞も何となく似たような構成となる。
 ということは、世の中の動きがおとなしい日こそ、その新聞社ならではのオリジナリティーあふれる紙面を作るチャンスであり、手腕が問われるとも言える。

■社会現象の棚橋弘至選手引退試合、豪快に紙面展開

 1月5日。大分合同新聞と同じ地方新聞である岐阜新聞が、目を見張るダイナミックな構成の新聞を発行した。前日4日に東京ドーム(東京都)であったプロレスラー・棚橋弘至選手(49)の引退試合を、1面と社会面で大展開したのだ。「スポーツ紙ではない一般紙の岐阜新聞がなぜ?」。疑問に感じる方は多いと思うが、その答えは、棚橋選手が岐阜県大垣市出身のスーパースターであるからだ。
 この日の試合はインターネットやCSでの生中継のほか、22年ぶりに地上波で全国ネット放送されたこともあり、「試合を見た」という人は全国に大変多いと推察される。東京ドームは4万6913人の観客で超満員札止め。これはもう、単なるプロレス興行の域を超えた「社会現象」であると言って良いだろう。郷土が生んだ英雄のラストファイトを、岐阜新聞だからこそ「伝えたいこと」と捉えたに違いない。これぞ地元紙。本領発揮である。

■「やるなぁ」血が騒ぐベテラン整理記者

 岐阜新聞の鷲見進(すみ・すすむ)統合編集局長が1月5日付の新聞を郵送してくれた。その紙面構成を詳しく解説するとこうだ。1面は「棚橋弘至選手が引退」の本記に3段写真。そして社会面は「愛されて完全燃焼 最後の勇姿4万人熱狂」の見出しで、引退試合の模様と引退セレモニーを伝え、ハイライトシーンの3段半の写真。記事には、一般紙でほぼ見ることがない「ハイフライフロー」や「レインメーカー」などの必殺技の名称が並ぶ。関連で棚橋選手の両親の記事と写真、そして大垣市のイオンモールで行われたパブリックビューイングの様子を伝えた記事と写真も収容されており、実に社会面の3分の2のスペースを割いている。さらに関連でスポーツ面には、同じ日に東京ドームであった、東京五輪柔道男子100キロ級金メダリスト、ウルフ・アロン選手(29)のプロレスデビュー戦の記事と写真も載っている。
 大分合同新聞ニュース編集部のベテラン整理記者に岐阜新聞を見せたところ「おーっと。やるなぁ岐阜新聞!」と、うれしそうな顔で感想。整理記者の血が騒ぐ紙面展開なのだ。

■世間との戦いを仕掛けた「価値判断」に拍手

 かつてアントニオ猪木さんは、プロレスを社会に認めてもらうために、異種格闘技戦などさまざまなチャレンジをして世間と戦った。棚橋選手は、プロレスが不人気となった冬の時代に寸暇を惜しんでプロモーション活動に身を投じ、世間と戦って人気をV字回復させた。一般紙でプロレスを大展開した岐阜新聞の「価値判断」も世間との戦いであると言えよう。拍手だ。

【あのころに卍固め】
 JCOMの昼の情報番組「ひるドキ!」の金曜日放送のコーナー。大分合同新聞社の公式ユーチューブチャンネル「大分合同新聞oitatvcom」でも同じ内容を配信中。

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