【Gateインパクト】書評~大分合同新聞読書欄から 辻村深月著「琥珀の夏」

 辻村深月著「琥珀の夏」
(文芸春秋・1980円)


 ヒット中の「ファイア・ドーム」で話題をさらっている著者による2021年に書籍化された傑作。毎年夏を迎えると思い起こす作品であり、最新作同様に周到なストーリーの組み立てと緻密な心理描写にうなる。

 かつてカルトと批判された集団「ミライの学校」の敷地から子どもの白骨死体が発見される。自らも娘を持つ弁護士ノリコは、死体が孫かもしれないとする依頼人の要請で集団に関わることになる。実は彼女は小学生の頃に学校の夏合宿に参加した経験を持ち、自主性を育てるために親と離れて共同生活を送る子どもたちとふれあい、一人の少女と「ずっと友達」と約束を交わしていた。そして考えるようになる。もし、あの子が死んでいたら…。

 冒頭から現在と30年前の記憶が行きつ戻りつしながらミステリー仕立てで描かれ、繊細でありながらヒリヒリするような心境で読み進めた。

 中盤まではノリコと、「学び舎(や)」で出会った少女、ミカの視線からストーリーが展開し、友人とうまくいかないもどかしさ、親に翻弄(ほんろう)されながら与えられた環境の中で懸命に生きる姿など、子どもならではの繊細さや残酷さが丁寧でみずみずしく表現され、懐かしくも痛々しい。一方で、「正しさ」「真理」のみを追求する大人たちの純粋であるが故の恐ろしさが寒々しくも鋭くえぐられる。

 とはいえ、カルトと類される集団の批判となっているわけでも、彼らを“異物”と見なしているわけでもない。大人になって社会で生きる者と、子ども時代から同じ世界にとどまっていた者の思いが交錯する物語で見えてくるのは「こうするしかなかった」人たちの姿。両者の間に「距離などなかった」と感じるノリコの気づきは示唆に富んでいる。

 安倍晋三氏銃撃事件の前に書かれているが、宗教2世問題や家族の在り方を深い考察で問うてもいる。人間の怖さと危うさを照らす重い内容だが、最後には光を見せてくれる。読み終えた後、タイトルの味わい深さが染みる。(高橋桂子・大分合同新聞記者)

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