国が危険運転致死傷罪を見直した背景は、社会常識では明らかに悪質な事故なのに適用されず、より刑罰の軽い過失運転致死傷罪として扱われるといったケースが全国各地で積み上がっていたからだ。
北海道小樽市では2014年7月、飲酒運転のドライバーが4人をひき逃げし、死傷させた。飲酒検知で呼気1リットル中0・55ミリグラムのアルコールが出たにもかかわらず、検察側は危険運転致死傷罪を適用しなかった。
被害者遺族らが「納得できない」と署名活動を展開すると判断を覆し、危険運転致死傷罪に訴因を変更した。
18年12月には三重県津市で、時速146キロの車がタクシーに激突し、5人を死傷させた。一審と二審はいずれも検察が主張する危険運転致死傷罪を退け、予備的訴因の過失運転致死傷罪で判決を言い渡した。
こうした事例が各地で続く中、21年2月、大分市で時速194キロの車による死亡事故が発生した。大分地検は当初、津市146キロ事故の裁判例を踏まえ、過失運転致死罪でドライバーを起訴した。その問題が大きく報道され、被害者遺族が訴因変更を求める署名を提出した後、地検は危険運転致死罪に切り替えた。
23年2月に時速160キロ超の車が起こした宇都宮市の死亡事故でも、検察側は危険運転致死罪を適用しなかった。この事故も遺族らの署名活動を経て、検察は危険運転致死罪への訴因変更を宇都宮地裁に請求した。
市民感覚と法解釈の「ギャップ」が各地で明るみになり、自民党は23年10月、法の在り方を考えるプロジェクトチーム(PT)を設置した。東京の被害者遺族が以前から「実態の検証」を訴えており、働きかけが実を結んだ。
PTは「進行を制御することが困難な高速度」「アルコールの影響で正常な運転が困難」といった条文は曖昧だと判断。猛スピードや多量の飲酒による事故などについて適切に対応できていないとして、基準の明確化を国に求めた。国は24年以降、法務省の有識者検討会と法制審議会を通して2年がかりの議論を重ね、数値基準の導入を決めた。