【Gateインパクト】旅するための読書(2) 吉田徹『ミッテラン』

 吉田徹 『ミッテラン』(岩波新書)

 3年前の春、初めてフランスを旅した。ノルマンディー地方のルーアン、カーン、モンサンミッシェル、ロワール地方のシャルトル、トゥールなどを回り、パリでは3泊したが当初の想定ほど動き回れなかった。それが後悔といえば後悔だが、一気にフランス、とりわけパリ熱が高まった。

 この3年パリに関する本を読み、常に(古)書店や図書館で本を探している。ひと昔前パリに移住・長期滞在した芸術家や作家(例えば藤田嗣治、岡鹿之助、辻邦生、山田稔、高峰秀子ら)の身辺雑記が好みなのだけど、最近は適当な本が見つからない。政治や歴史分野にも手を広げようと思っていたら、「理想と現実の間で格闘続け」との見出しで『ミッテラン』の新聞書評が目に飛び込んできた。

 ミッテランは第2次大戦に出征し、ドイツの捕虜を経験、戦後すぐに閣僚となり、1981年5月から1995年5月まで実に14年間フランス大統領を務めた。ちなみに日本では同じ期間に鈴木善幸、中曽根康弘、あとは飛ばして、村山富市まで9人が首相を務めている。

 フランス人は政治家の伝記を好むそうだが、ミッテランについて書かれた本だけでも500冊以上あり、その数は群を抜いていると前書きにある。この人の経歴をおさえておけば、戦後のフランス社会を俯瞰(ふかん)できるのではないか。マイルス・デイビスの経歴を追えばジャズの歴史をざっくり把握できるように。そう考え、『ミッテラン』を読み進めた。

 新たな政治体制をつくるために、度々憲法を改正し、選挙制度を変えてきたフランス政治のダイナミックさというか、柔軟性に感心し、さまざまな政党・政治団体の連立が組まれ、その只中(ただなか)に居続けたミッテランの政治の世界を生き抜く力を知った。よく政治屋や風見鶏と揶揄(やゆ)されたが、「風見鶏が向きを変えるのではなく、風が向きを変えるのだ」とミッテランびいきの論評が残るのも面白い。

 私は、演説での言葉の選択や残した手紙の文面からうかがえる文学的素養が、ミッテランという左派政治家の最大の魅力ではないかと考える。ただ文学は単なる褒め言葉ではない。シンクタンク代表者から「ミッテラン外交14年の特徴は現状維持」と総括されたとあり、私はこれも文学的な政治家ゆえかなと思ったりもする。

 「最大の過ちは失敗することではなく、失敗を克服できないことにある」や「時間には時間が与えられなければならない」と格言めいたものから、第2夫人のアンナには「君の表情に僕の人生を読み取ろうとしている」などと映画の名せりふのような言葉を投げかける。自身の政治観は「政治とは人間との間の絆を深め、運命共同体としての感覚を強めることを使命とするもの」。

 政治家そして家庭人としてのミッテランの言葉、ミッテランを論じる哲学者、評論家や政敵の言葉。この本の中には書き留めておきたい言葉が山ほど出てくる。さすが、議論を愛しつつ理屈では割り切れなさそうな国フランスで超長期政権を担い、欧州統合を深化させた人物の評伝だ。
(児玉真路)

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