こんにちは。ぼくはサンゴ。名前はないよ。ぼくは、ここから動くことが出来ない。いつもぼくのまわりには、たくさんの魚達が泳いでいる。その魚達は、ぼくの知らない世界をたくさん教えてくれるんだ。特にウミガメさんは、いつも面白い話をたくさんしてくれる。たとえば、広い海にぼくの知らないような生き物たちが楽しそうに住んでいて、自分も少し入れてもらい一緒に遊んだ話。「人」っていう見たことのない大きい生きものに会った話。ドキドキしたり、元気になったりする話をウミガメさんはいつもしてくれる。ぼくもいつか行ってみたいなって思ってる。だけど今の生活も楽しいよ。ぼくのまわりには、ベラの家族が住んでいてぼくをたくさん頼ってくれる。ぼくの知らないことを教えてくれるウミガメさんも、ぼくを頼ってくれるベラの家族も、皆々、きっとぼくの知らない生き物たちも、やさしいんだろうなといつも思っている。明日はどんな日になるだろう。どんな話がきけるだろう。きっと、きっと楽しいんだろうな。
水が温かくなってきた。これが夏ってやつなのかな。このごろ魚達が、ぼくのまわりをあまり泳いでいない。泳いでいる魚達も、どこか元気がない気がするよ。この前そのことをベラの家族に聞いてみた。
「ねぇ、なんでみんな元気がないの。」
「それはね、このごろ海の水が温かくなっているの。いつもこの時期はあついけど、今年は特にね。」
「ああ、それに私達の食べるものの中に危険な物がまじっていることがあるからなんだ。」
「危険なもの?」
ぼくは驚いてきき返した。
「うん。なんだかいろんな色だったり、キラキラしてたりするから、つい食べたくなっちゃうんだ。でもこの前おじいちゃんが、それを食べて動かなくなっちゃったの。」
確かにすこし前からキラキラしたものが流れていたなと思った。でもだれが、そんなものを流しているんだろう?
それから季節がながれた。秋になったのに水はあまり冷たく感じない。前よりも魚がもっと少なくなった。ぼくの仲間の何人かはだんだんしゃべらなくなって、どんどん白くなっていった。ぼくもいつかは、ああなってしまうのかな? と思うと少し怖くなった。仲間は皆白くなり、魚達はいなくなって気付いたらぼくの周りは寂しくなっていた。
冬になった。最近ぼくは具合が悪い。今日は久しぶりにウミガメさんに会った。その時に「きみ、なんだか白くなったね。」と言われた。やっぱりぼくも皆と同じようになっているんだ。ウミガメさんがぼくの横を通り過ぎた。その時ぼくの体の欠片がポロリと落ちた。
波打ち際に打ち上げられたサンゴの欠片を少女が拾い、ニコリと笑ってつぶやいた。
「海の中にいるお魚たちは、どんなふうに暮らしているんだろう。」