ある年の正月明け、佐伯市は蒲江の辺りを旅したときのことだ。
キャンプ先に考えていた波当津に向かい、曲がりくねった海岸線を進んでいた。左手に広がる県南の水面は、ひたすらのどか。人と擦れ違うこともほぼなく、何を考えるともなく右脚左脚を前に出していた。
ふと、頭上のことが気になった。
トンビだ。
大空を気ままに、ヒョロローと響かせては弧を描いている。その様子が実にゆたっとしていて、いいもんだと思った。
その後も黙々と右脚左脚を続けていると、だんだんと頭上のヒョロローが気にかかるようになった。
同じトンビかは分からない。が、まあなんとも飽きることなくはるか頭上を泳いでいる。
そのうち、ふと思った。
あやつ、ひょっとしたら僕んこと狙っちょるんじゃなかろうか。
ドキリとするとともに、ちょっとばかし面白く思った。
私は人間だ。人間といえば、この地上の王様といっても過言ではない。例えば今、私が脚を踏みしめているこの道は人間が造り、その上に交通標識でルールをこしらえ、安全と秩序まで生み出している。
私たち人間様が、一番偉いんだぞう。
そう威張りたいところだが、今私の頭上を泳いでいるトンビにとっては、そんなことは何のありがたみも意味もなかった。詰まるところ、私は単なる獲物に過ぎないのだ。
人間は、自然の世界の単なる一要素に過ぎない。大した存在ではない。逆に言えば、それほど力む必要もないのかもしれない。大空の主に図らずも一喝を食らったように感じ、私は笑い出したくなると同時に気持ちがフッと軽くなった。
その後も頭上に響くヒョロローに、それまでより少しばかり愛着が増した。
(旅師X)