政財界をはじめ、さまざまな業界や組織で女性の活躍がめざましい。マット界(プロレス界)もその一つ。ここにも同様のうねりが起きており、今、女子プロレスが日本のプロレス史上、空前の人気となっていると言っても過言ではない。
■男子が前座で会場を暖め、その後を女子が仕切る画期的構成
クリスマスイブイブの12月23日、新しい発想で生まれた女子プロレスのセクション(部門)が大分市で本格稼働を開始した。名は「プロレスリングBES(ベス)」。そこに「大八刀(だいはっとう)女子部」と併記してある。BESによると、「大分」の「分」を分解したら「八」と「刀」になり、それを「大」からつなげて「大八刀」だという。力強く、美しく、鋭さを感じさせる造語だ。大=Big(ビッグ)、八=Eight(エイト)、刀=Sword(ソード)の頭文字で「BES」と命名した。
大分市を拠点とするプロレスリングFTOの女子部という位置付けだ。昨年(2024年)、佐伯市と大分市で試験的にBESのコンセプトで試合をしてみたところ、大変な盛り上がりだった。FTO代表のスカルリーパー・エイジは「今、求められているのはこれだ」と確信し、今回の大会に至ったというわけだ。
BES本格稼働の会場となったJCOMホルトホール大分(大分市金池南)の観客席は満席。BESはFTOの組織内にあるセクションであるため、男子レスラーも出場したが、全5試合のうち、男子の試合は前半の2試合。いわゆる「前座」というやつである。画期的だ。あとの3試合は女子という、BESのスタートダッシュにふさわしい思い切った大会編成と言える。大分県外の各種団体やフリーとして活躍する女子レスラーたちを招へいした。
BESの対戦カードはこうだ。▼第3試合=シングルマッチ15分1本勝負=久令愛(クレア)VS沙恵▼セミファイナル=シングルマッチ15分1本勝負=ジャンボ井上VS紫雷(しらい)美央▼メインイベント=タッグマッチ20分1本勝負=鶴姫花 ミス・モンゴルVS桜井裕子 SAKI(サキ)。これらの試合を裁いたレフェリーはTOMMY(トミー)。
■華麗で明るく激しい戦い リングに舞う色とりどりの紙テープ
「令和天空美神」久令愛と「名古屋の性悪女」沙恵は中盤、沙恵の蹴りがしつこく久令愛の顔面を襲う。「目には目を、歯には歯を、顔面には顔面を」と言わんばかりに、久令愛の逆襲の前蹴りが沙恵の顔面にヒット。両者譲らぬ中、沙恵が久令愛をレインメーカー(相手の片方の手首をつかんだまま、自らの利き腕を至近距離から相手の首に打ち付ける技)で倒し、フォールの体勢に入ったところで久令愛が隙を突いて沙恵を丸め込むという、一瞬の返し技で勝利。
「帰ってきた子連れ女狐(めぎつね)」紫雷美央は10年ぶりにリングに復帰したばかり。経験の浅い「黄色い大蛇」ジャンボ井上をもてあそぶかのような余裕の試合運びだったが、井上は15分間、紫雷に食らいつき、時間切れに。井上にとっては価値ある引き分けと言える。
デビュー30周年の「老害妖怪鬼ババァ」ミス・モンゴルと「瀬戸内のジャンヌダルク」鶴姫花の異色タッグは、「マイルド♡ワイルド☆カワイルド」SAKIと「あなただけの女神」桜井裕子の同門コンビと激突。モンゴルは顔面に施したペイントで威圧し、凶器を持ち出す傍若無人なファイト。鶴はボディースラム(抱え投げ)を連発で食らうなどピンチの場面もあったが、コーナーポスト最上段からのミサイルキックなどで応戦。SAKIと桜井はカンパーナ(うつぶせにした相手の両手首と両足首を固定して自らの股下につり上げ、遊園地にある海賊船のアトラクションのように前後に振る拷問技)とコブラツイストを、鶴とモンゴルに同時に仕掛け、息の合った連携を見せた。最後はSAKIが旋回を加えた破壊力抜群のブレーンバスターで鶴をマットに沈めた。
華麗で、明るく、激しい3試合に色とりどりの紙テープが客席から投げ込まれ、会場内は大きな歓声に包まれた。
■トキハで試合をした女子レスラーが世界のスーパースターに
50年以上続く年末恒例の「プロレス大賞」では今年、上谷沙弥(かみたに・さや)が女子で史上初のMVPに輝く快挙を成し遂げた。日本の女子プロレスラーASUKA(アスカ)やカイリ・セイン、イヨ・スカイは世界最大の団体WWEのスーパースターにのし上がり、ファンを熱狂させている。
ちなみにASUKAは10年以上前、大分市府内町のトキハ屋上ビアガーデンで、今回BESに参戦した紫雷美央と対戦したことがある。ローカル団体のリングに上がっていたレスラーが世界を席巻しているとは感慨深い。女子プロレスが脚光を浴びているのは、ダンプ松本の生きざまを描いて話題になったドラマ「極悪女王」の影響も大きいのではなかろうか。マット界に吹き荒れる女子の嵐。これからが楽しみだ。
※女子レスラーのキャッチフレーズはパンフレットに書いてあるそのままを記載。(下川宏樹)