2021年2月に大分市大在の一般道で時速194キロの車が引き起こした交通死亡事故は、9日で発生から4年となる。危険運転致死罪が適用されにくい実態を浮き彫りにし、政府が自動車運転処罰法の改正を検討する流れを生んだ。事故で亡くなった同市坂ノ市南、会社員小柳憲さん=当時(50)=の姉は「遺族のつらい気持ちに終わりはない。思いを酌んだ法改正を求めたい」と胸の内を明かした。
生前の記憶が徐々に薄れても、最期の表情は鮮明に残っている。姉の長(おさ)文恵さん(59)は「ひつぎに入った憲の顔は忘れられない」と声を詰まらせた。
憲さんは勤務先から車で帰宅する途中、猛スピードの車に激突された。約2時間半後、家族に何かを伝えることもできず、搬送先の病院で旅立った。
「自分の人生がまさか50歳で終わるとは思っていなかったはず。どれほど悔しかったことか…」。長さんはやるせない思いを語った。
憲さんは当時、実家で両親らと暮らし、鉄鋼加工関連会社に勤務していた。発泡酒での晩酌を毎日楽しんでいたという。
跡取りだった長男の憲さんを失い、父(87)と母(85)も失意の日々を送ってきた。父は昨夏に車を手放し、母は以前と比べて足腰が弱った。
高齢となった両親のことも考え、長さんは今春、30年以上暮らした長崎県から古里の大分に移り住む。「以前から『60歳になったら大分に帰る』と、憲に話していた。1年早いけど約束をかなえる」
事故は危険運転致死傷罪の在り方に一石を投じた。
刑事裁判では成立するか否かを巡って検察側と弁護側の主張が真っ向から対立した。昨年11月の一審大分地裁は危険運転致死罪の成立を認め、懲役8年を言い渡した。
判決後に検察側と被告側の双方が控訴し、裁判は事故から4年がたっても終結していない。背景には「制御困難な高速度」と位置付けた条文の曖昧さがある―。長さんはそう感じる。
法務省は「法定速度の○倍以上」といった数値基準を導入する法改正を考えている。鈴木馨祐法相が10日に法制審議会に諮問し、学識経験者らによる詰めの議論がスタートする。
長さんは「基準が明確になるのは賛成できる。厳罰だけでなく、事故の抑止につながる取り組みにも力を入れてほしい」と願っている。
<メモ>
事故は2021年2月9日夜、大分市大在の一般道(法定速度60キロ)で発生した。当時19歳だった男(23)=同市=が乗用車を時速194キロで走らせ、交差点を右折してきた乗用車に激突。運転していた小柳憲さんを出血性ショックで死亡させた。大分地検は当初、男を過失運転致死罪で在宅起訴。「納得できない」とする遺族が約2万8千筆の署名を提出した後、危険運転致死罪に切り替わった。