法曹関係者や交通事故被害者遺族らが出席した法務省の有識者検討会=21日、東京・霞が関
大分市の時速194キロ交通死亡事故で適用要件の曖昧さが浮き彫りになった危険運転致死傷罪について、見直しを議論する法務省の有識者検討会の初会合が21日、東京・霞が関であった。委員からは、条文の表現が分かりにくく、猛スピードや飲酒、赤信号無視といった悪質運転に同罪が適用されない事例が各地で起きているとの指摘が出た。検討会は論点の整理を進め、要件をどの程度、明確化できるか話し合う。
委員は刑法学者や裁判官、検察官、弁護士ら計10人。刑法を専門とする今井猛嘉(たけよし)法政大教授(59)が座長に就いた。2020年3月に赤信号無視の軽ワゴン車にはねられて長女=当時(11)=を亡くした遺族で「危険運転致死傷罪の条文見直しを求める会」(東京)の波多野暁生さん(46)も加わった。
議事は非公開。法務省によると、同罪で規定されている「進行を制御することが困難な高速度」といった条文について、複数の委員が「抽象的なので適用しにくいのではないか」と発言した。
法改正による明確化を求める意見があった一方で、「処罰範囲が不当に広がる恐れがある」との懸念も出た。
このほか、▽過失運転致死傷罪の法定刑(懲役7年以下)の引き上げ▽スマートフォンを使用する「ながら運転」の厳罰化―などについての検討を促す声もあった。
次回は3月7日に開き、被害者遺族から聞き取りをする。検討会で法改正が必要と判断されれば、法制審議会(法相の諮問機関)で具体的な内容を詰める。
自動車運転処罰法の危険運転致死傷罪を巡っては、自民党が昨年10月に法の在り方を考えるプロジェクトチームを設置。同12月、「現在の運用は国民の常識と乖離(かいり)している」として、岸田文雄首相に法改正を含めた対応を取るよう提言した。
<メモ>
大分市の事故は2021年2月9日深夜、同市大在の県道(制限速度60キロ)で発生した。当時19歳だった男(22)が乗用車を時速194キロで走行させ、交差点を右折中だった乗用車に激突。乗っていた同市坂ノ市南、会社員小柳憲さん=当時(50)=を出血性ショックで死亡させた―とされる。大分地検は22年7月、男を過失運転致死罪で在宅起訴した。遺族は罪名の変更を求めて署名活動を展開。地検は同12月、危険運転致死罪に切り替えた。現在は裁判官、検察官、弁護人が裁判員裁判に向けた争点整理をしている。