【Gateインパクト】旅するための読書(11) 鷲田清一 『京都の平熱 哲学者の都市案内』

 鷲田清一 『京都の平熱 哲学者の都市案内』 (講談社)

 旅先では歩くのがいい。

 浪人時代を過ごした京都なら、京都駅に降り立ち、通勤通学者や観光客でごった返す烏丸口バス乗り場を素通りし、七条を抜ける。東山五条にあった予備校寮の跡地を確認して、大和大路通を北上。祇園の雰囲気の良い小径を行き来し、やはり鴨川は見ておこうと四条大橋を渡る。古書や中古レコード、骨董店を冷やかしつつ寺町まで歩くこともあれば、東大路通まで戻り、四条から三条辺りでバスに乗ることも。その辺りからバスの乗客は減ってくる。バスは北大路方面に左折、紫野付近で降り、また散策する。

 東京なら、新橋駅で降りて銀座8丁目から1丁目を「銀ブラ」して京橋、日本橋方面へ。神田駅で降車すると、周辺のいくつかの老舗飲食店の混雑ぶりを目に収め神保町へ。なじみの30近くの古書店をパトロールした後は、駿河台から御茶ノ水駅方面。お約束のように聖橋に立ち、丸ノ内線とJR中央線、総武線ホームを見下ろす。

 山形市なら、山形駅から十日町、七日町を歩き、老舗書店「八文字屋本店」には必ず寄る。その後、霞城公園や文翔館を歩き(江戸時代小藩だった大分市にはない地域資源でうらやましい)、旅篭町の古書店「香澄堂」に入る。何冊か買い込み、山形大学方面に向かう。途中、麺のうまい山形ならではの蕎麦(そば)やラーメンで小腹を満たす。料理が出てくるまで入手した本を開くのは最高のひとときだ。

 沖縄の那覇市なら…。県外はもうここまでにして、大分県内だったら別府市にはいくつか自分なりの散歩コースがある。竹田市の城下町も好きだ。豊後竹田駅から竹田のまちなかを歩けば5キロ、岡城まで上れば7キロほど歩くことになる。帰りは駅近くの「竹田温泉・花水月」に寄るか、車で長湯温泉に移動し、「御前湯」や「大丸旅館」の湯に浸かる。県内を歩くなら、やはり最後は温泉で締めたいものだ。

 前置きが長くなったが、今回紹介するのは鷲田清一『京都の平熱』。鷲田は京都市生まれの哲学者で大学教授。2007年3月初版のこの本は「哲学者の都市案内」と副題が付く。著者はこう書き始める。

 「京都市バス206号系統。京都駅から京都駅まで市内を一周する定番のバス。その路線沿いにわたしの人生のすべてがあった。京都の聖・俗・学、つまり寺社仏閣も旧遊郭も大学もほぼ揃っている。そんなバスである」

 そう、この本は206号沿道を歩く随筆集なのだ。ちなみに206号は時計回りと反時計回り循環があり、この本では反時計回りで話が進む(冒頭の私の京都歩きも206号反時計回りコースに近い)。東へ、北へ、西へ、南へ、終着駅への5章からなり、「ラーメン文化」「祇園今昔」「鱧おとしと鯖寿司の悲しみ」「学生に甘い町」「都の中心にある鄙(ひな)」「生活者の神仏たち」などの雑文が収録される。古都の歴史や文化、食や遊びの場をネタに、京都生まれの哲学者ならではの、ひとクセある筆致で文章が展開される。

 大分を離れ18歳から19歳の多感な時期を過ごした京都に対して、私は常にある種の郷愁を持つ。寮から予備校に通うバスは202号系統だった。馬町から堀川丸太町まで。停留所の数は16。次はそのコースを歩くことにしよう。
(児玉真路)

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