歩き旅を始めてから四半世紀になるが、最初のうちは車の排ガスにかなり苦しめられた。2000年代前半までは、トラックの吐き出すモクモクが相当濃かったのを覚えている。
1999年の年末、神奈川県は藤沢市から湘南海岸沿いに小田原を目指したことがある。左手には果てなく広がる太平洋。進行方向のはるか先には富士がデンと構え、旅人を見守ってくれているようで気分も高揚した。
30キロほど歩き、夕暮れ時になって小田原駅前のビジネスホテルにたどり着いたころはもうヘトヘト。ホテルで早速シャワーを浴びた。
忘れもしないが、顔を洗おうとほっぺに両手を当てたときの感触がすごかった。ヌルヌルした膜のようなものに覆われていた。石鹸でこすり、タオルできれいにぬぐったが、不快感はこの上なかった。うひー。
あれは、間違いなく車の排ガスだった。決して市街地を歩いたわけではなく、風通しのよい海岸線を進んでいただけなのに、当時はトラックが勢いよくモクモクを吐き出しており、素顔でもろに食らってしまっていた。
それから数か月後、もう少し先の静岡県に入り焼津市の手前を歩いていたのだが、ここで数キロはある長いトンネルに差しかかった。これももう、ひどかった。浅い呼吸で排ガスが肺の奥に入らないようにし、とにかく速足で出口を目指した。もう二度とこのトンネルは歩きたくないと思った。
あれから30年近くになり、排ガスに苦しめられることはほぼなくなった。率直にいって、空気がだいぶきれいになった。「排ガス」という単語が道中、頭に浮かんでくることもなくなった。規制や車の性能向上のおかげだろう。素朴にありがたい。
時代が進むと、良くなったと感じることもあれば逆もある。一介の旅人としては、こと排ガスに関しては間違いなく環境は改善したと感じる。ほかにもいろいろと変化を感じることがあり、また改めて触れることにしたい。
(旅師X)