【Gateインパクト】愛車に「超有能な相棒」を迎えたら、車内が口うるさい合唱団になった件

損害保険会社から提供されたドライブレコーダー

 フロントガラスの上隅にたたずむ、手のひらサイズの黒い機器。中央には頼もしすぎる真っ赤な「SOS」ボタンが鎮座している。
 最近の損害保険会社が提供するドライブレコーダーを、単なる録画機能だと思って導入すると度肝を抜かれる。この小さな本体に通信機能と人工知能(AI)が詰まり、事故発生時の安心感は文句なしの100点満点だ。大きな衝撃を検知すれば、自動でコールセンターへ位置情報や映像を送信し、オペレーターが救急車の手配までする。あおり運転に遭った際も、赤いボタンを長押しするだけで専門スタッフと直通通話がつながる。
 この「超優秀な相棒」が日常に溶け込んで以降、運転席の空気は一変した。朝、お気に入りの音楽を流して出発と思いきや、エンジンをかけた瞬間から車載機器たちのトークが始まる。自動料金収受システム(ETC)は「カードが挿入されました」、カーナビは「この先、渋滞しています」、ドラレコは「全国交通安全運動期間です。夕暮れ時は視認性が低下しますので早めの点灯を心がけましょう」。
 まだ駐車場から動いていないのに、車内は「おしゃべり」の大渋滞だ。お気に入りの曲のイントロはナビの注意喚起にかき消され、交差点を曲がればドラレコからすかさず「急ハンドルを検知しました」と鋭いツッコミが飛ぶ。サビに突入したと思えば「前方にご注意ください」と割り込んでくる。
 「まじ、うるせえ」。思わずハンドルを握る手に力が入り、本音が車内に響く。走りだしてからは、誰かしらが交代でずっとしゃべり続けており、優雅に音楽を聴く余裕はみじんもない。助手席と後部座席に、やたらとお節介な親戚一同を乗せて走っているようだ。
 さらに手ごわいのが、専用アプリやウェブで確認できる「安全運転診断」と「家族見守り機能」だ。車内のセンサーが挙動をしっかり記録しており、見守り者として家族を登録しておくと、「急アクセル」「急ブレーキ」などの危険挙動回数がメールなどで家族に通知される。つまり、「深夜の急ブレーキ1回」「急ハンドル1回」という記録から、「夜中にこっそりラーメンを食べに行って焦って帰ってきたな」と家族に感づかれるリスクをはらむ。
 万が一のとき、命と愛車を確実に守ってくれるのは間違いない。しかし、車内での音楽鑑賞タイムと、家庭内での立場まで守る「特約」は付いていない。今日も機器と家族に怒られないよう、静かにハンドルを握っている。 (原田宏一)

最新記事
【Gateインパクト】書評~大分合同新聞読書欄から 飯孝行編著「子どもたちの命と生きる 大川小学校津波事故を見つめて」
【Gateインパクト】笑顔が消えた、初めてのレーサー
【Gateインパクト】揺れながら生きる(2)知らない世界から吹く風 豆塚エリ
【Gateインパクト】六角鉛筆と、あの日の三角関数―あんぽんたんな大人より
【Gateインパクト】旅するための読書(10) 江弘毅 『K氏の大阪弁ブンガク論』