鹿島茂 『パリの本屋さん』(中央公論新社)
大分県立図書館(県図書)には月に2回ほど行く。大分市出身の世界的建築家、磯崎新氏の素晴らしい建築の中に身を置きたい欲求も強いが、蔵書が極めて多いことが本好きの自分には最高にうれしい。普段は屋外駐車場に車をとめ、雨天時や寒い日、暑い日は地下駐車場に入れて、ストレスなく入館する。
気に入った本は新刊でも古本でも自宅の本棚に並べておきたい派だが、面白そうな本をすべて購入することはない。もちろん金の問題もあるし、自宅の置き場の制限もある。買ったはいいが、予想したより面白くなく、もう二度と読むことはないと評価した本は所蔵したくない。「再読するために本を持つ」ことが私の流儀といっていい。
とはいえ、再読したくなる本を見つけるのはそう簡単ではない。書店やインターネットで試し読みし、面白そうと感じても、腰を落ち着けて読むとそうでもなかったり、逆のケースもあったりする。一定期間自分の手元に置き、この本を本当に読み返すのかどうかを見極めるためには他人から借りるか、もしくは図書館に行くしかない。
新聞書評や交流サイト(SNS)で推され、気になった本でも価格が高かったり、そもそも自分の好みに合うのか判断に迷うケースが多い。そんな時は県図書の蔵書検索をして、貸出中なら予約し借りてみる。私にとって県図書は最高の本のショールームなのだなあと思う。
さて『パリの本屋さん』について。大好きなパリ関連本は常にチェックしているので、フランス文学者の鹿島茂氏がまたまたパリの本を出したことは知っていた。この人はフランスの稀覯本(きこうぼん)コレクターでもあるので、その種の古書店を巡る本なのだろう、あまり興味はないなと目を通すこともなかった。3520円もするし。
それから2年がたち、県図書の旅行ガイド棚に『パリの本屋さん』を見つけた。パラパラとめくると、予想した内容と異なり、古書店、カフェ、美術館に歴史散策などパリ全般に触れた随筆集だった。借りて読了。これは面白い、入手しようと決め、まさに再読するために購入。また借りればいいのに…と指摘はしないでほしい。
「パリところどころ」の章に印象に残る話があった。日本語で「大通り」と訳される2つの単語「ブールヴァール」と「アヴニュ」の違いについて。前者はかつて都市を囲む城壁があったのを壊して道路に変えたもので、環状大通りなどと呼ばれる。後者は到達地点に城郭、広場、モニュメントなどの建築物がある大通り。アヴニュはブールヴァールに比べて、歩道が広く、散策を楽しむのに向く。シャンゼリゼ大通りが人気なのは道路の彼方に凱旋門がそびえているから。
東京でも原宿の大通りが美しいのは到達点に古くてゆかしい原宿駅があるためで、無残なのは銀座の中央通り。幅広い歩道があるのに、到達点にあるのは高速道路。「大通りというのは、歩行者に、到達点への散策を誘うようでなければならないのである」と結ばれる。パリを散策するつもりで本を読んでいても、こんなウンチク話に心がときめいてしまう。なるほど、大分市の遊歩公園アヴニュの到達点は府内城址だな、などと考えながら。
(児玉真路)