九州産業大学・大楠アリーナ(福岡市)で8月30日、かなり珍しいジャンルの全国大会が開かれた。その名も「学プロ ALL GENERATIONS(オールジェネレーションズ)2026」。学プロとは「学生プロレス」のことだ。全国各地の大学にある、いわゆる「プロレス研究会」で活躍中の学生レスラーたちが、事実上初めて集結した大会だ。
7団体から43人のレスラーが参戦した。呼びかけたのは九州産業大学プロレス研究部(KWF)。これに関東学生プロレス連盟(UWF)、一橋大学世界プロレスリング同盟(HWWA)、立命館プロレス同好会(RWF)、愛知大学プロレス同好会(AWA)、学プロOBの社会人団体(AZW)と、同じく社会人団体(CWP)が応じた。
■元プロレスラーの叔父も注目! オープニングマッチは大分出身の船木
会場は300席が埋まり、超満員となった。2部構成で全10試合。参戦したレスラーの中には大分県出身者も複数いた。このうち第1試合の大役を務めたのはKWF所属の2年生、船木ママ勝(19)=大分市出身=だ。
船木の叔父は、何と「炎!修市」のリングネームで活躍した元プロレスラーの小野修市さん(53)=別府市=で、この日、小野さんも会場にやってきて、観戦した。
船木はかつて叔父がいた団体「大分プロレス」のレスラーたちを見て心を動かされた。そうした体験もあって、九州産業大学で学生プロレスの門をたたいたのだという。その船木の試合にスポットを当ててみたい。
プロレスにおける第1試合は、会場を温め、その日の大会の雰囲気や流れをつくる上で、大変重要な位置付けと言える。「前座」ではあるものの、特に今回のようなスケールの大会では「オープニングマッチ」と称して、わざわざ観客の期待感をあおるのが常とう手段だ。コケるわけにはいかない。
同門同期のパラ齋藤(さいとう)とのシングルマッチ。学プロ2年生といえば、先輩たちの下で1年間の練習や下積みを経て、これからスターダムに駆け上がっていくための過渡期である。大会パンフレットには「フレッシュなシングルマッチ。今までの練習の成果を見せるのはどっちだ」と書いてある。経験は浅いが、活(い)きのいいファイトが期待できる。
■オーソドックスな序盤から、得意のドロップキックの組み立てに移行
齋藤は身長187センチ。船木は172センチ。向かい合って立つと、齋藤のデカさが際立つ。
試合は、腕の関節を取り合う展開で始まった。オーソドックスな流れだ。すると、齋藤がタックルで船木を吹っ飛ばし、サーフボードストレッチ(背後から相手の両腕の手首をつかみ、背中に押しつけた自らの靴底を支点にして、両腕を強引に引っ張る技)で痛めつける。脚が攻められそうになったところで、船木が切り返し、齋藤に首4の字固め(両脚で「4」の形を作るように首をロックする技)で反撃。
船木はサッカー出身だ。首投げからサッカー仕込みのキックを齋藤の背中にぶち込み、ドロップキック(跳び蹴り)で追い込んで、片逆エビ固め(うつぶせにした相手の片脚を自らの脇に挟み、腰に体重を乗せてそり返す基礎的な拷問技)を決める。一進一退といったところか。
中盤以降、船木はドロップキックを軸に技を組み立ててきた。齋藤の顔面にヒットするほどの打点の高さに、客席からはどよめきが起きる。
しかし、連発しているうちに脚力が弱まったとみられ、放送席のアナウンサーからは「なんか、どんどん低くなっていきますね」と突っ込まれる始末。笑いが起きたが、こういうところが学プロならではだ。
■決意の船木 「もっと練習して、もっと技を増やしていきたい」
齋藤はパワーを生かし、やや横回転を加えたスクラップバスター(相手をあお向けの状態で自らの脇腹辺りまで抱え上げ、体重をかけながら背面から落とす技)で追い込み、フォールを狙った。
船木はいったんこれを返したものの、再度、スクラップバスターを食らってしまい、力尽きてマットに沈んだ。
学生プロレスは「いかに観客の印象に残る試合をするか」という部分が非常に大事だ。強さや技術でうならせるレスラーもいれば、笑いを誘うネタでインパクトを残すレスラーもいる。そういう意味では、船木は「ドロップキックの使い手」、齋藤は「身長の高さ」を印象づけたと言って良い。
船木本人は試合をこう振り返る。「体格差を言い訳にしたくないが、勝てなかったのは悔しい。もっと技を増やしていきたい。そのためにもっと練習を頑張りたい」
叔父の小野さんは「ペース配分を考えずやってるなって思いましたが、若さっていいですね。プロレスを通じ、注目を浴びるような体験がたくさんできると思います。大きなけがをしないよう気をつけて、学プロを思いっきり楽しんでほしいです!」と感想を述べた。
■筆者は学プロOB 関東の後輩たちも奮闘、声援爆発の会場
今回の大会の軸となった九州産業大学プロレス研究部(KWF)は、その名の通り「部活動」である。コーチを務めるタイガーニシヤマスクによると、全国で唯一、大学が認可した部活動団体という。何てプロレス愛が強い大学なのだろうかと感心する。この大会の開催を知ったのは、KWFの知人レスラー、仮面タイガーブラックRXの誘いだった。行って良かったとつくづく思う。
筆者は40年ほど前、参加団体の1つ「UWF」で学生レスラーをしていた。この日の大会にはUWFの後輩たちもたくさん出場していたので、うれしかった。その全員のリングネームを書きたいところだが、学プロにありがちな下ネタが多いため、紹介できるのは「おやなかせたかし」くらいだ。このレスラーはなかなかいい戦いっぷりをしていたので、大会終了後に「よかったぞ」と声をかけさせていただいた。
記事では船木のみにスポットを当てたが、出場したすべての選手、運営を支えたスタッフあっての大会だということがよく分かる。タイガーニシヤマスクは大会の締めで「きょうの出来事を居酒屋かどこかで話題にしてくれるだけでうれしい。笑って、楽しんでくれたら最高です」とあいさつした。
また来年もやるそうだ。青春爆発! ぜひやってほしい。(下川宏樹)