村岡俊也 『増補 新橋パラダイス』(ちくま文庫)
本を買う行為は現在、大きく次の四つに分けられる。
(1)新刊書店で新刊を買う(今は新刊も売る古書店が出てきたが)
(2)インターネットで新刊を買う(「Amazon」以外にもいろんな書店がある)
(3)古書店で古本を買う(今は古本も売る新刊書店が出てきたが)
(4)インターネットで古本を買う(私は「日本の古本屋」か「Amazon」が多い)
私の本の購買行動をざっと分析すると、(1)(2)が各15%、(3)(4)が各35%といったところで圧倒的に古本が多い。欲しい本が少々こだわっていて絶版になっているケースが多いことと、古書店や古本市を訪ねることが趣味だから、以上2点が理由だ。ちなみに「古本」はまだ流通している中古本で、「古書」は絶版になった本という定義があることはあるが、そう厳密ではないようなので、私は気ままに使い分ける。
旅先では古書店を訪ねる。東京では古書の街・神保町、時間があれば早稲田や西荻窪辺りに足を延ばす。大阪の天神橋筋は良い古書店がいくつかあるし、京都、広島、福岡、小倉、長崎、熊本、沖縄にもなじみの古書店がある。親族のいる山形に行けば香澄堂書店の古本棚を1時間は眺める。もちろん地元大分市にも別府市にも定期的に行く古書店があるし、全国展開する新古書店にふらりと立ち寄ることもある。
それだけ古本好きではあるが、文々堂の「旅するための読書」で紹介するのは、新刊で販売中の本に限ると決めている。紹介した本を読みたいと思ってもらっても絶版だと申し訳ない。本を読む喜びを共に味わってもらいたいから…と一応述べておくが、日頃70%の割合で古本を購う者にとって、実はハードルがとても高い。
さて、今どきこんな本が新刊で出るのかと、しばしば驚きを与えてくれるちくま文庫の新刊『新橋パラダイス』を購入した。「駅前名物ビル残日録」の副題が付く。この本の主役は新橋駅西口のSL広場に隣接するニュー新橋ビル(1971年竣工(しゅんこう))と、東口の新橋駅前ビル(1966年竣工)である。私の計7年間の東京勤務時代はJR新橋駅で乗降し、二つのビルはとても身近だった。汐留に仕事先の電通と共同通信社があるので、新橋駅前ビルの中はしょっちゅう通過したし、ニュー新橋ビルでは行列してオムライスを食べ、スタンドで野菜ジュースを飲んだ。この本ではそんな店の主人が登場するが、今どきこんな類いの文庫本が出版されるのもサラリーマンの街、新橋だからだろう。
「旅するための読書」と名付けているからには、旅の前に読む本を取り上げたいところだが、新橋駅かいわいが日常生活の場であった時分を思い出しながら読む『新橋パラダイス』は格別の味わいがある。むさしや、喫茶店フジ、小川軒、明文堂、ビーフン東、七蔵、ポンヌフ、パーラーキムラヤ、ベジタリアンなど通った店が出てくる。文章を追っていると店の風景がまぶたによみがえる。そして新刊なのになぜか古本を読んでいる気になる。そういえば、現在も年数回開催される「新橋古本まつり」の時期は、会場のSL広場をワクワクして歩いたものだなあ。
(児玉真路)