試合終了後、スタンドに駆けつけてくれた生徒やOBへのあいさつ。定位置よりもかなり前までナインを誘導し、頭を下げるよう促した。夢破れ、涙が止まらない選手たちと並び、那賀誠監督は精いっぱいの笑顔で感謝を伝えた。
「大リーグまで行ってくれ。プロにただ入るんじゃなくて、何年かたったらメジャーに行ってくれんと困るぞ。そんだけの素材なんやから」
煙たがられているだろうな―。そう感じながら2年半、「金の卵」を育ててきた。時には心を鬼にして厳しい言葉を投げかけ、長年培った野球哲学や生き方を伝えた。入学時は「独りで野球をしていた」という平田玲翔主将(3年)が世間の注目を浴びる超高校級の選手に成長したのは“本氣”(指揮官の思いの強さは『気』では足りない)が伝わったからだろう。
「彼には本当に期待しています。身体のばね、肩関節の可動域、肘の使い方。イメージしたボールのさらに上をいく。体をつくり、時間をかけて(上のステージへ)上がっていってほしい」。大商を29年ぶりに聖地で勝たせてくれた立役者に対し、初めて率直で正直な思いを語ったのは、2回戦敗退の後だった。
平田を含めた今季の個性豊かな3年生18人は「熱血漢」に導かれ、野球に打ち込む青春を駆け抜けた。指揮官は甲子園で活躍の機会がなかった3年生にも目を配り、フォローを忘れなかった。
高校野球の全指導者が夢見る舞台で、最後まで涙は見せなかった。「少しぐっときましたけど、『やっぱ帰って布団かぶって寝ようや』っち。こらえて、相手をたたえて、で布団の中でね、布団かぶって『クック、クック』と泣くような人に、なってほしいんです。あんまり人前でおいおい泣く人間になってほしくないんですよね」。今にも涙がこぼれそうな大きな目でそう言い、優しくほほ笑んだ。
日本一を本気で見ていたからこそ、悔しさは人一倍だろう。それでも教え子たちに「道」を示し続けた指揮官の、もしかすると少し古いかもしれない思想は、令和の子どもたちにしっかりと伝わっていた。伝統校に、新しい伝統がまた一つ、加わった。(福)