【Gateインパクト】サラリーマン空想漫遊記(7)星空スナック(上)

 しがないサラリーマンである私は、ある週末、田舎のキャンプ場に車を走らせた。

 いわゆる、ソロキャン(一人キャンプ)をするためだ。

 誰に気を使うこともなく、夕焼け空をつまみに、ビールをちびちびやる。ああ、たまらん。

 やがて日が沈む。大空のあちこちに、ポツ、ポツと光が姿を現し始める。一番星、二番星。そしてあっという間に、満天の星だ。

 ひしめく光たちを無心に見上げていると、気づいた。

 ほかにも、何か見えるなあ。

 光とすらもいえない、か弱くて砂粒ほどに小さい点たちが、密集して大河のように流れている。それも、天の頂(いただき)から、南の地平線に向かって。

 これが、例のあれか。

 宇宙に詳しくない人間でも、「天の川」という言葉は知っていた。遠い遠い彼方に浮かぶ、星々の集まりだという。何と大きくて、美しいんだろう。

 息を飲んで見上げながら、ふと思った。

 日が暮れて、光を灯し始めるものといえば・・

 飲み屋のネオンもそうだなあ。

 ひょっとしたら、この小さな小さな粒たち、実はみいんな、ネオン街のお店たちなのかもしれないぞ。

 宇宙の向こうでも、日が暮れるとネオン街が、ママさんたちが、動きだしているということだろうか。

 音もなく活気を増していく光の川が、もはや壮大なネオンストリートにしか見えなくなってきた。

 思わず、つぶやいた。

 「宇宙のスナック銀座、やぁ!」

 そのときだ。とりとめのない一言が何かのスイッチを入れたのか、私は強力な掃除機に吸い込まれるかのように、夜空に向かって引っぱり上げられていった。

 「うわあああ」

 三日月が大きく迫る。それを横手に通り過ぎる。地球はあっという間にビー玉のように小さくなった。一体、私はどこに連れて行かれるんだ。

 気が遠くなった。

 ◇   ◇   ◇

 「あら、お初の方かしら」

 気づくと、薄暗いところのソファに座っていた。

 目の前には大きなテーブル。その向かいから、ハスキーボイスが私に話しかけてきた。飲み屋のママさんだろうか。

 「え、まあ、そんなところかな」

 私はとりあえず冷静を装った。ここは一体どこだろう。スナックだろうか。そういうことにしておこう。

 ママさんは「ごめんなさいね、今店を開けたばっかりで」と話すと、慌てて店の電気をつけた。カウンターテーブルの向こうにいる、店の主と目が合った。

 あまりのまばゆさに、息が止まった。

 ブロンドヘアーに、透き通るブルーの瞳。まとう衣装は金色にきらめく。店のライトをそのまま吸い込むかのように、全身からまばゆいハロー(後光)まで放ち始めている。

 「き、金星人?!」

 私は思わずつぶやいた。幼いころ、本で読んだ宇宙人にそっくりだ。実在しないと思っていたけれど。

 「金星って何よ。ここ、ミルキーウェイの五番街よ」

 ママさんはよく分からないことを言い、笑った。私もつられて笑った。一体何がどうなっているんだろう。

 どぎまぎしていると、店のドアがカランカランと音を立てた。お客さんのようだ。

 「おー、やってるねえ」

 その姿に目が点になった。

 大きなタコが歩いている。

 タコは「ごめんよ」と私の隣に腰かけた。そして8本の手か足かを器用に動かし、ママさんのついだばかりのグラスを傾け、一口に飲み干した。

 隣には、火星人ならぬタコ星人。カウンターの向こうには金星人のママさん。どんな変なところにきてしまったんだろう。

 常連とおぼしきタコ星人は、私に話しかけてきた。「おたく、どちらから?」

 どう答えたものか困った。変な答え方をすると、いぶかしがられたり、下手をすると食べられちゃったりするかもしれない。

 「まあその、田舎のほうですよ」

 九州の地方都市。それで勘弁してください。そう思っていたが、タコ星人も金星人ママもポカーンとしていた。

 「私たちが聞いているのはね、どちらの星かっていうこと」

 金星人ママは、一見の私にかみ砕いて説明してくれた。ここは、天の川の中心にある秘密のネオン街だということ。無言で流れる星々を眺め、「スナック銀座」の存在に気づいた星人だけが招かれていること。つまり、あちこちの星の飲んべえたちがそろっていること。

 「なるほど」

 私は半分分かったような気がした。それで、知っている限りの知識で地元を説明した。地球出身であること。太陽の周りを回っていること。夏の夜には天の川が見えて、冬の夜にはオリオン座がきらめいて美しいこと。あと、秋にはアンドロメダ銀河も見えるんだっけ。

 「おたく、そりゃだいぶ辺鄙(へんぴ)なところから来なすったねえ」

 タコ星人は遠い目をした。話によると、私の地元の太陽系は、天の川の中でも端っこの方にあるグループらしい。

 「俺も『太陽系』なんてグループは初めて聞いたよ」

 気づくとタコ星人の隣にもう一人、お客がいた。またまた驚いた。

 ・・イカじゃないか。

 宇宙にはタコ星人もいれば、イカ星人もいると。もう何でもありだ。アタマの中にある、「常識」という名のストッパーが外れた。もう何を見ても聞いても驚かないぞ。私は選ばれし飲んべえたちが集うスナック銀座のひとときを楽しむことにした。

 自己紹介をひとしきり終えると、タコ星人がやや緊張気味に尋ねてきた。「それで、俺とこいつ、どっちがいいよ」

 タコ星人とイカ星人の、どちらがカッコいいかを知りたいようだ。赤いタコと白いイカで、なんとも白黒付けがたい。

 「私の田舎では、タコもイカも刺し身にして美味しくいただいてますよ」とは、とてもじゃないが言い出せなかった。それで差し障りなく「紅白そろっておめでたいですなあ」とごまかした。

 金星人ママが、間をつないでくれた。「ところで地球人さん、そっちの星のスナックはどんな感じなの?」

 こっちのお酒カルチャーに興味があるようだ。なんだかうれしいなあ。そこで私は、地球のスナックで定番のエンタメをお話することにした。

 やっぱ、これだろう。

  ~(下)に続く~

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