【Gateインパクト】サラリーマン歩き旅⑨アンタッチャブル?

 歩き旅ではなるべくキャンプをするようにしている。費用を浮かせられるし、何より外の世界とつながっている開放感がある。

 人里離れた土地でテントを張ることも多く、その時は正体不明の何かに遭遇することもある。
 
 昨年、日本海に面した静かなキャンプ場で一晩を過ごした時のことだ。

 ビルやネオンの光からはるかに離れたところで見上げる星空は、それはもう見事だった。深夜2時すぎ、キャンプ場から少し離れた原っぱでスマホを南の空に向け、音もなく流れる天の川を満喫していた。

 いい写真が撮れた。満足し、テントに戻ろうと小さな橋を渡ろうとすると、たもとの小川で突然大きな音がした。

 バシャン、バシャン

 何かが動いていた。川底を踏みしめているようだ。こんな夜中に、しかも相当音が大きい。私は橋の上にいながら、少々身の危険を感じた。

 イノシシだろうか。でも、動物特有の鳴き声が聞こえない。音からすると、二足歩行のようだ。密漁の人にしては大胆すぎるし、こんな浅瀬では何も出ないだろう。一体・・

 暗闇の中で、正体が脳裏に浮かんだ。

 半魚人。

 海に暮らす、半分お魚、半分人間の妖怪だ。全身はうろこに覆われ、筋骨隆々としている。頭にはひれが付いている。少年時代、アニメや漫画で何度も見た。

 阿呆(あほう)と思われるかもしれない。当然だ。が、辺り真っ暗で自分以外に人がいない状況では、UMA(未確認生物)に出くわしたとしても違和感がなかった。

 その時、私はヘッドライトを装着していたので、やろうと思えば音の主に光を向けることもできた。

 だが、したくなかった。やってはいけないと思った。

 もし、こいつが本当に半魚人だったらどうなるだろう。恐らく、相当に鈍くさいやつだ。この後、海の底にあるおうちに帰って、家族や仲間からこっぴどく叱られるに違いない。「何でお前は人間に正体をさらしてしまったんだ」と。

 妖怪と人間はつかず離れずの関係で長らくやってきた。いるのかいないのか分からない、曖昧な境目の所でやり合うのがいいのだった。例えば河原では、「河童に出くわすかもしれない」「しりこ玉を抜かれるかもしれない」と怖れることで、人間はむやみに深みに入るのを避けた。おうちでは、妖怪「垢(あか)なめ」の登場にビクビクしながら、お風呂の垢をゴシゴシと拭き取ったものだ。妖怪は、われわれ人間を怖がらせる一方で、暮らしを正してもくれるありがたい存在なのだ。

 なのに、正体を人間に見られてしまったら、余韻も何もあったもんじゃない。現代社会で妖怪の生きる余地はほとんどない。一回、SNS(交流サイト)で写メが拡散でもしようものなら、一族そろって生け捕りにされて、見せ物にされてしまうかもしれない。

 私は歩き旅をしているときは職業や肩書きを忘れるようにしているが、この目で見たことは世の中に報告しなければいけない。それはちと、苦しい。

 空想の中で、私はライトを音の主に当ててみた。そこには、完全に虚を突かれて立ち尽くす半魚人がいた。「やっちまった」。水遊び、見つかった。深夜、人里離れた場所だからと油断していた。盛り上がった背中に、哀愁が漂っていた。私はつぶやいた。「バカ、やろう」

 私は脳内の空想を振り払った。ライトを付けず、そのまま橋を渡り切った。バシャン、バシャンはその後もしばらく続いた。が、どこかで静まった。私はテントの中で再び眠りに落ちた。

 世の中には、触れてはいけないアンタッチャブルな世界があるのかもしれない。私の出くわしたような、鈍くさい妖怪(?)もいるかもしれない。ただ、そのときは武士の情けで、どうか見逃してあげてほしい。

 妖怪とも、仲良く共存といけたら最高だ。
 
(旅師X)

最新記事
【Gateインパクト】サラリーマン歩き旅⑩ローカル・ツーリズム
【Gateインパクト】九州高校野球大分県予選で優勝の上野丘、77年ぶり栄冠への道
【Gateインパクト】上村優也選手と伐株山でピクニック
【Gateインパクト】パトリア日田で高見さん兄弟3人展「山を想う―里帰り」始まる
【Gateインパクト】小佐井小児童の防災メッセージ