<一審大分地裁>「実質的危険性」に言及
大分地裁は、検察側の主張した危険運転致死罪の成立を認め、被告の男に懲役8年を言い渡した。
検察側が証拠として提出した走行実験結果について、地裁は「事故当時の車の揺れやハンドル操作状況を具体的に推認するものではない」と断った上で、「一般的に速度が速くなると揺れが大きくなり、ハンドル操作の回数が多くなる」と認めた。
検察側証人だった視能検査学者の証言も「夜間は運転者の視力が下がったり、視野が狭くなったりする傾向がある」と評価し、証拠として採用した。
事故現場の路面は2004年以降は補修されていなかったことなどから、車輪が作るくぼみ「わだち割れ」の存在を推認できるとしたほか、被告の車の幅に対して、通行していた車線の幅に余裕はなかったと認定した。
他の車や歩行者の存在が想定される一般道だった点も重視し、「194キロを出せば、ハンドルやブレーキ操作のわずかなミスが起こりうる。車を進路から逸脱させて事故を発生させる実質的危険性がある」と言及した。
こうした事情を総合的に判断し、制御困難な高速度に当たると結論付けた。
妨害運転については「被告には、被害に遭った車の通行を積極的に妨げる動機がない」などとして退けた。
判決の時点で事故から3年9カ月がたっていた。求刑12年を4年引き下げた理由について、辛島靖崇裁判長は「被告の責めに帰し得ない事情で長引き、不安定な状態に置かれ続けたといった情状を考慮する」などと説明した。
<二審福岡高裁>走行実験に疑問を呈す
福岡高裁は一審判決を破棄し、弁護側の主張する過失運転致死罪を適用。懲役4年6月を言い渡した。
高裁は一審判決の根拠となった検察側の走行実験に対し疑問を呈した。事故が起きた道路を時速194キロで走行する被告の車が、どの程度ハンドルを切ったら車線を逸脱する恐れがあったのか―。実験に用いた車が「被告の車種と異なる」ことなどから、「具体的な立証は何らされていない」と証拠の価値を否定した。
路面のわだち割れについては、「道路の凹凸の測定結果が明らかでない。路面状況が被告の車に具体的にいかなる影響を与えたかの立証は不十分」と述べた。
猛スピードでは車体の揺れやハンドル操作が増え、夜間は視力も低下する―とした一審の認定についても、高裁は「一般論」に過ぎないと退けた。「被告の車は一貫して車線内で直進を続けている。逸脱やスリップ、スピンはもとより、走路がぶれたりするなど制御困難な事態は見いだせない」と述べ、危険運転に該当する高速度を認定できないと判示した。
妨害運転の成立については、一審と同様に認めなかった。
平塚浩司裁判長は「日常用語としての危険な運転であることは明白」と被告を非難した。一方で、常軌を逸した速度に適用できない現状について、「同様の法解釈に基づいて過失運転致死傷罪で処罰する裁判例が積み重ねられている。(司法が処罰範囲を変えてはならないとする)罪刑法定主義の原則に即していない恐れのある特異な判断を維持することはできない」と述べ、国会による立法で解決するべきとの見解を示した。
■「制御困難」で異なる結論
一審大分地裁と二審福岡高裁は結論が異なるものの、いずれも共通の枠組みに基づいて判断している。
それは「進行を制御することが困難な高速度」とは、周囲の車や歩行者を回避するといった「対処が難しい」速度ではない―という法解釈だ。従来の判例通り、道路をはみ出すような「制御が難しい」速度を処罰対象とみなし、あくまで事故を起こした車の挙動で判断した。
被告の車は車線から外れず、直進していた。ただ、大分地裁は、「時速194キロで夜間に走行すれば車体は不安定になる」という検察側の主張に沿って、「実質的な危険性があった」と指摘。事故当時、車は「制御」を欠いていたと認定した。
対して、福岡高裁は一審判決が認めた車の不安定さは「抽象的な可能性」に過ぎないと一蹴。事故当時に「制御困難」だった事実の立証はできていないとの結論を出した。
危険運転致死傷罪に詳しい東京都立大の星周一郎教授(56)=刑法学=は「一審は大きく踏み込んだ判決だった。二審の判断は立法趣旨と裁判例の枠組みを重視したと言える」と話している。