1月11日、大分市横尾のクラサス武道スポーツセンターで第30回県・第8回全国小中学生書道チャンピオン大会が開かれた。
「ドン、ドーンドンドン」―。佐藤樹一郎知事が太鼓を打ち鳴らし開始を告げた。予選を突破した小中学生の児童・生徒が一斉に筆を構える。課題は発表されたばかりだ。
主催はNPO法人県書写書道指導者連合会(県書連)と大分合同新聞社。今年県大会として30回の節目を迎えた。全国募集も始めて8回目となる。2588人(県外は1都3県27人)の応募があり、予選を突破したのは1891人。当日参加は1636人だった。
大会は開始直前の課題発表と手本がないのが特徴。制限時間は1時間。参加者は指定の清書用紙5枚から1枚を提出し、当日審査で上位が決まる。松崎典孝県書連会長は「手本をまねるのではない。文字の構造を理解し、考えて字を書く大会」と思いを語る。
武道場は、紙を繰る音と空調の作動音、観客席から見守る保護者たちのささめきだけが響いている。バスケットコート4面分の広さに1人1畳弱ほどの区画が並ぶ。硬筆は長机に3人ずつ着席している。
今回の書の課題は「うま」「絵馬」「お米」「物価高対策」など。練習用の紙に何度も線を引く子、一画一画筆を止めて考え込む子、膝立ちで周囲の様子をきょろきょろと見回す子、早々に清書を済ませてしまい、手持ち無沙汰で座布団を抱きしめている子もいた。「どう書くか」だけでなく「どう時間を使うか」も委ねられている。
この日会場には小中学校の書写の教科書を出版する光村図書出版も取材に訪れた。同社の中島浩二九州支社長は「千人規模で一斉に揮毫(きごう)するのは全国でも珍しい」と話す。「これまでも教科書の中で地域の取り組みとしてコラム的に紹介してきた」。教科書で学ぶ「書写」から、手本のない実践の場面を見つめていた。
県外からの参加もある。茨城県つくば市の吉岡書道教室は今回が初めての出場。主宰の吉岡和子さんはかつて大分で教室を開いていた。引っ越した先の茨城には同様の取り組みはなく、「子どもが成長する姿を見てきた。ぜひ経験させたい」と強い気持ちがあった。だが費用も時間もかかること。年末年始の愛媛県への帰省のタイミングで参加したいと希望する子が現れ、他にも手が挙がった。結果7人が挑戦することになった。小学1年生と4年生の子どもを連れて来県した母親は「遠かったけどこんな機会はない。実際に参加して規模にびっくりしました」と笑顔で話した。
最高賞のチャンピオン賞を2度受賞した人には「グランドチャンピオン」の称号が与えられる。30回を記念して、13人のグランドチャンピオンも出席した。第15代の樋口友紀さんは、長崎でフリーリポーターとして活動し、書道パフォーマンスにも取り組む。大会について「たくさんの人が見ている中で書くライブ感、緊張感。メンタルが鍛えられました。これをきっかけに人前に出ることも好きになったし、テレビの生放送でも瞬間を楽しめます」と語った。
終了を告げる太鼓が鳴った。2回目の挑戦という小学2年生の女の子は「前よりも緊張しなかった」と言い、練習した文字をなぞった。「『お』の最後の膨らみが大きすぎた。うまく書けたとは思わない」と少し声を落とす。手本のない中、自分の理想にたどり着く難しさをにじませた。
昼食時間の1時間で小中学校の書写担当教諭20人による公開審査が行われた。止め、はね、はらいといった点画の筆使い、配列など、文字の構造を理解し、正しく書けているかを見る。こうして各学年から1人ずつ最高賞の9人が選ばれた。
大会の原点は、書道展で耳にした来場者の声だったという。松崎会長とともに大会を立ち上げた牧泰濤(たいとう)名誉顧問は「子どもがこんなにうまいはずがない。先生が書いたのを出したんだわって、たびたび耳にしてね」。何百枚と練習を重ねた努力の結晶なのに、展示するだけでは証明できない。なら実際に書いているところを見てもらおう―。悔しい思いが、公開揮毫の大会につながった。
1997年初回の決勝大会参加者は383人。2005年の第9回大会から千人規模になった。
松崎会長は「30回続いたことに感謝です。無事終了できて大満足」と喜び、重ねて大会について「まねをするだけでは楽しくないし、身に付かない。自分で考えれば責任が持てる。将来生きて働く力として文字を書くことになる。それを体験させたい」と結んだ。