【Gateインパクト】サラリーマン歩き旅③はだかとはだか

 歩き旅をしている時は、仕事や日常を忘れるようにしている。記者であること、会社員であること、家庭人であること、何でもだ。名もない裸の自分に戻り、ただ歩いて、目の前に広がる世界を吸い込む。

 こうしていただく出会いもある。

 熊本県は天草諸島を歩いていたときのことだ。私は片方の膝を少し痛め、やや引きずる形で夕暮れ時の海岸沿いを進んでいた。

 白い軽トラが、少し前の路肩に止まった。中から熟年のおじさんが現れ、私に話しかけてきた。

 「どこまで行くの」

 おじさんは、けが人のような歩き方をする私が気になったらしい。この日、私はあと3キロほど先にあるキャンプ場に泊まる予定で、その旨を伝えた。

 「その脚じゃ無理だ、乗りなさい」

 おじさんは、半ば無理矢理に私を軽トラに乗せようとした。私は、申し訳ないが抵抗した。自分が歩いてつなぐ旅をしていること、膝は痛むがこの日のゴールも目の前で急いでいないこと。おじさんの親切心を肌身に感じたから、なるべく丁寧に、お伝えした。

 私の粘りに、おじさんも根負けした(申し訳ない)。

 と、予想しないことが始まった。

 おじさんも、歩き出したのだ。

 私の歩きぶりでは無事にキャンプ場にたどり着けるか、分からない。だから、一緒に歩いて、見届ける。そういうことのようだった。

 おじさんに大変申し訳ない思いをしながら、それではと私は脚を引きずりつつ歩みを進めた。

 日が暮れかけていた。スピードを上げたかったが、悲鳴を上げる膝のせいでそれもできない。それでもおじさんは、せかすことなく私のペースに合わせて1時間ばかしの残り旅に付き合ってくれた。

 無事、キャンプ場に着き、私がテントを張ったところで、おじさんは安心したようにひと息ついた。

 おじさんは人が良いのだろう、晩飯の算段がついているのかまで尋ねてこられた。安心してください、とばかりに私がザックから弁当箱を取り出すと、そこでまたほっとしたようだった。

 そのまま促されるように弁当箱を開けた。私がもぐもぐと栄養分を取る様子を、おじさんは満足げに見守った。

 と、おじさんは諭すでもなく、とつとつと語り出した。

 人間、生きているといろいろ苦労があるだろう。うなされることもたくさんあるだろう。そのときは、体を休めなさい。横たえなさい。たとえ眠りに入れなくても、それなりに疲れは癒やされるはずだ。今の政界を見てごらん、激動そのものだ。でも、リーダーたちは倒れることなくやっている。それは、短くても体をしっかりと休ませているからだろう。

 押し付けるわけでもなく、真心から発しているのが分かる人生の大先輩のアドバイスを、ありがたくいただいた。

 素性も分からない、初めて出会った旅人に、おじさんはどうして人生訓まで明かしてくれたのだろう。

 私は自分の素性をそれほど多くは語らなかった。ただの歩く旅人であり、それで十分だと思っていた。何の肩書もない、丸腰の人間に接する中で、おじさん自身も緊張やてらいがほぐれ、いつしか裸の自分に戻り、心の声が自然と漏れたということなのだろうか。

 おじさんは、私に語りかけながら、自分自身にも励ましのメッセージを送っていたのかもしれない。

 歩くという素朴な動作に浸るだけの旅だが、そこでいただく出会いには、お互いが裸になる真心の交流があると感じる。

(旅師X)

 ~いったん休足。また歩きます~

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