奈良時代、東大寺(奈良市)の大仏建立に当たって守護神として宇佐神宮から分けられた八幡神が26日、初めて宇佐に里帰りする。東大寺に隣接する手向山(たむけやま)八幡宮から、神職らの手により御鳳輦(ごほうれん)(みこし)で宇佐神宮へ運ばれる。「歴史の一幕を飾る行事を盛り上げたい」と取り組みを進める奈良や宇佐の人たちに思いを聞いた。
手向山八幡宮は749年、宇佐神宮から東大寺に着いた八幡神を勧請(かんじょう)(分霊を迎えて祭る)したことが起こりとされる。今月5日、この時の故事に由来する例祭「転害会(てがいえ)」が営まれた。
上司延礼(かみつかさ・のぶひろ)宮司(61)は祝詞に、里帰りが無事に執り行われることを願う言葉を加えた。「宇佐との長いつながりに感謝している。里帰りを多くの人が楽しみに、励みにもしている」と説明した。
御鳳輦は八幡神を迎える際に用いられたとされる紫のみこしが起源。里帰りには担ぎ手や雅楽を演奏する楽人ら約80人が参加する。
みこし長の樽井宏幸さん(51)は「御鳳輦や調度品など、奈良の品格のあるものを見ていただきたい。宇佐神宮御鎮座1300年に花を添えたい」と気を引き締めている。
里帰りが実現した背景には、2002年10月に宇佐神宮のみこしが市民約500人と共に東大寺に参拝した「宇佐八幡神輿(みこし)フェスタ」がある。この行事をきっかけに宇佐市と奈良市の交流が深まった。フェスタに当初から深く関わった東大寺元別当の狭川普文(ふもん)長老(74)や上司永照(えいしょう)執事長(63)も同行する。
東大寺では、八幡神が僧の姿となった僧形八幡神坐像(国宝)を長く祭っている。上司執事長は「東大寺は宇佐の八幡神に守られて今がある。今回の里帰りは東大寺の原点を思い返す機会でもあり、大切にしたい」と話している。
奈良の一行は26日の当日、1300年奉祝・勅祭記念事業として今年から始まる「古代宇佐時代祭」の行列に加わる。その後、宇佐神宮の上宮に向かい、神事を執り行う。
手向山八幡宮や東大寺との信頼関係を築いてきたNPO法人USAネットワークの里見和俊理事長(70)は「1300年という節目に宇佐と奈良をつなぐ行事に関われたことは誇りでもある。いつまでもこの地で語り継がれるように迎えたい」と待ち望んでいる。
<メモ>
手向山八幡宮にある御鳳輦は、平安時代に作られたとされる国重要文化財。宇佐に来るのは2017年に精巧に模して作ったもので、高さ約2・4メートル、幅約1・2メートル。黒漆塗りの骨組みが紫の錦に包まれ、頂に金色の鳳凰(ほうおう)が載る。