クルーズ船の入港続く別府市、爆発的なタクシー需要 官民対策で県内全域から営業車両

タクシーに乗り込むノルウェージャン・スピリットの下船客=8月30日、別府市の別府国際観光港

 別府市の別府国際観光港に今、ある巨大クルーズ船がたびたび入港している。乗客2千人を運ぶ「ノルウェージャン・スピリット」(全長268メートル、7万5千トン)。船を下りて街を目指す客が爆発的なタクシー需要を引き起こし、さばききれずに乗車を待たせる事態が続く。官民一体の対策の現場を追った。

 「次は分乗させる?」「目的地を聞いて」。市タクシー協会の案内係が忙しげに動く。8月最後の土曜日の午前9時半。巨大な船体が乗客たちを吐き出すと、港のタクシー乗り場は喧騒に包まれた。
 鉄輪温泉、ショッピングモール「ゆめタウン別府」、JR別府駅周辺―。どこへ行くにも3キロ少しあり、徒歩での往復はきつい距離だ。出港までの滞在時間は6時間半。タクシーを利用したい気持ちは分かる。
 日差しを避ける仮設テントの下で、乗車待ちの列は幾重に折れながら伸びた。目立つのは欧米系とアジア系の中高年。サングラスにスニーカー、リュックサックと装いは万全だが、足止めされて所在なさげに腕を組む。
 案内係が手際よく車に押し込んでいくものの、時間差で下船する人が次々加わる。列は140人前後からなかなか減らない。市、市タクシー協会、大分運輸支局の幹部も顔をそろえ、やきもきした様子で見守った。

 騒動の背景には、この船に特有の「個人旅行者が多い」という事情がある。
 市や周辺自治体などでつくる「県国際観光船誘致促進協議会」によると、他のクルーズ船はツアーバスを何台も用意するが、ノルウェージャン・スピリットは少ない。少人数のグループで目的地に向かうケースが多いため、一時的に大量のタクシーが必要になる。
 これまでも「クイーン・エリザベス」(9万トン)や「MSCベリッシマ」(17万1千トン)といった、より大きな船も入港してきたが「ここまでの騒動はなかった」と協議会事務局。
 そんな船が5月の初入港以来、4カ月間で6度とハイペースで姿を現す。今後も予定が控えている。

 午前11時20分、ようやくタクシー乗り場から列が消えてきた。下船開始から1時間50分。それでも4時間かかった初入港時と比べ、大幅に改善したという。
 「みなと」「ふたば」「はと」「合タク」…。この日、港には多くのタクシー事業者の表示灯が並び「総力戦」を印象付けた。市外の営業車両も駆け付けた。市などが協議し、道路運送法の特例を適用して対策した成果だ。立ち入り制限が緩和され、県内全域から呼べるようになった。
 「弊社は杵築市などからも加勢に来ています」とあるタクシー会社の専務。別府市の担当者は「いつもより多く集まってくれている。効果があった」とほっとした表情を見せた。
 客足の分散を図ろうと、協議会は有料シャトルバスも用意した。大分運輸支局の藤木淳史支局長は「あの手この手で、1人当たりの待ち時間が最大で半減した」と説明した。
 夕方が近づいた。巨船が黒煙を風にたなびかせて港を離れていく。乗客がベランダに出て、ゆったりと景色を眺めている。
 後日、市役所にある協議会事務局を訪ねた。ノルウェージャン・スピリットにはしばらく振り回されそうですね―。「想定外の事態を経験しているが、おかげで受け入れ能力の限界は広がった。今後、大抵のことには対応できそう」。担当者は頼もしげに語った。

<メモ>
 県国際観光船誘致促進協議会によると、別府国際観光港に入るクルーズ船は、横浜や神戸などから出発して国内を巡るルートが多い。海外客は空路で来日した後、優雅な船旅を楽しんでいる。入港数のピークは2012年度の32回。コロナ禍で激減したが、23年度には31回、24年度は28回と回復。本年度は9月25日時点で24回に上り、11月末までにさらに9回を予定している。

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