訪問介護サービス基本料減額に不安の声 大分県内の事業所「続けられなくなる」

半身にまひがある男性の歩行を手助けするホームヘルパー(右)=大分市牧

 介護報酬の改定で、4月からホームヘルパーを派遣する訪問介護サービスの基本料が減額される。県内には経営に余裕のない事業所も多く、「このままでは続けられなくなる」と不安の声が上がる。廃業が進めば、サービスを希望しても受けられない「介護難民」が増える懸念もある。

 「おはようございます。調子はどうですか」
 26日朝。大分市牧のマンション5階で暮らす男性(52)方を訪れた女性ヘルパー(59)が明るく声をかけた。男性の体温を測り、歯磨きや身支度を手伝ってから、体を支えて一緒に1階へ降りる。玄関にはデイケアの送迎車が待っていた。
 男性は脳梗塞の影響で半身にまひがあり、約3年前から週2回デイケアに通う。一人では送迎車まで歩けないため、「送り出し」と呼ばれる訪問介護のサービスが頼りだ。
 同居する70代男性も足腰が弱く、「ヘルパーさんのおかげで通所できている。いてくれないと困る」と話す。

 男性が利用する訪問介護施設「なでしこ」(同市牧)は32人のヘルパーが所属する。高齢化で退職者が相次ぎ、人手不足で新規採用も難しいことから、10年前から半減した。
 サービスの申し込みは増加傾向で、現在は月700件ほどの利用がある。ただ、依頼が集中する朝と夕方は手が回らず、やむなく断る状況が続いて収入は伸び悩んでいる。訪問に欠かせない車のガソリン代も高止まりし、負担増にあえぐ。
 今回の報酬改定では、各サービスの基本料が引き下げられる。最も利用が多い「身体介護(30分以上1時間未満)」の場合、1回当たり3960円から90円下がる。
 同施設では、収入が年間200万円以上減る見通しだ。離職を防ぐためにスタッフの給料は維持するという。50代の女性責任者は「なぜ訪問介護だけ減額なのか。ホームヘルパーは必要ないというメッセージにしか受け取れない」と憤る。

 厚生労働省は訪問介護事業の平均利益率が7・8%で、介護サービス全22業態の2・4%と比べて十分な黒字を確保していることを改定の理由に挙げる。
 ただ、調査対象の中には、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅に併設されるなど利益率の高い事業所も含まれる。県ホームヘルパー協議会(約60施設)によると、訪問介護サービスのみを提供する小規模な事業者は、苦しい経営を強いられているという。
 改訂には、職員の賃上げを実施すると介護報酬を最大24・5%加算する措置も設けられたが、基本料の減額の影響が大きく、踏み切れない事業所が多い。
 同協議会の古野喜子会長(69)は「このままでは負担に耐えられない事業所の撤退が進み、サービスを利用できない人が増えてしまう事態を心配している。国には地域の実情を知ってもらいたい」と訴えた。

<メモ>
 県高齢者福祉課によると、介護保険サービスの利用者(要支援・要介護)は増加傾向にあり、2022年度は7万593人。18年度に比べ、3063人増えた。一方、訪問介護事業所は、ここ5年間、ほぼ横ばいで推移。23年4月1日時点の事業所数は435だった。

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