「独ソ不可侵条約」「宣戦布告」「参戦」…。白や黄のチョークがカッカッと音を立てて走り、第2次世界大戦の解説が黒板を埋めていく。
6月上旬。別府市立中部中(東荘園)のナカイラド・モハマド・ホセインさん(15)は、受験イヤーに突入した3年4組の教室で社会の授業を受けていた。
エンジニアを目指し、工業系学校への進学を望んでいる。最大の課題は、まだ基礎レベルの日本語だ。
イラン第2の都市マシャドで育った。経済制裁を逃れて異国で働く道を選んだ親に連れられ昨春、来日したばかり。母語ペルシャ語と懸け離れた言語を短期間で身に付け、同時に受験勉強を進める。
この1年、授業はどれくらい理解できたのだろう。
「なんとなく分かった教科もあったけれど、社会や理科はなかなか…。頑張ろうと思っても、退屈に感じてしまうこともあった」
日本語指導の必要な生徒が義務教育段階の後、直面するのが進路選択の壁だ。政府は外国人の子どもたちを「今後の日本を形成する存在」と位置付けて高校進学を促しているが、取り組みは地域差が大きい。
文科省の2025年度調査によると、公立高の入学者選抜で学力検査を免除しているのは5都県、教科を軽減しているのは17府県ある。半数近くに対応が広がる中、大分県はいずれも導入していない。
特別な配慮も▽辞書の持ち込み許可(東京、和歌山など)▽作文・面接で母語を認める(三重)―といった動きが出ている。大分は▽出題文の漢字にルビを振る▽学力検査の時間延長―などに限られている。
20都道府県が設ける外国人生徒の特別定員枠は大分にもあるが、実績は別府翔青の1校のみ。志望に合わせて進路を選べる環境とはほど遠いのが現状だ。
高い壁に挑む子どもたちを見過ごすまいと、民間が後押しする現場もある。
毎週土曜日、大分中央公民館(大分市荷揚町)で開かれる「子ども日本語教室」だ。大分市の「日本語ボランティアひまわり」が主宰し、海外ルーツの児童・生徒を迎え入れている。
受験が迫る生徒にとっては貴重な補習の場。学校で孤立しがちな子どもにとっては同じ境遇の仲間とつながり、励まし合う場。漢字を覚えたり物語を音読したりして1時間半を過ごす。
教室のオープンは14年。帰国していく子どもが多かった当初に比べ、長期滞在が増えてきたという。進学など将来を見据えた指導が求められる状況だ。
スタッフには市教委の「日本語指導講師」として学校でも働く「二足のわらじ」が4人いる。公教育だけではサポートが追いついていない現状を映し出しているように見える。
責任者で県教委の日本語指導アドバイザーも務める村上久美さん(68)は「学校に日本語指導の体制が整備されてきた今も支援が十分だとは言えない。私たちが教室を閉じる状況にはなっていない」と話す。
別府市教委は本年度、日本語指導員を1人追加すると同時に、ナカイラドさんが通う中部中を日本語指導の「拠点校」に指定した。高校受験を控える世代のサポートにてこ入れをした。ナカイラドさん本人は土曜日の夕方に市内で開かれている別の学習支援の会に顔を出し、黙々と自習に打ち込む。
文科省の有識者会議は6月にまとめた報告書で、入学者選抜での配慮拡大や入学後の日本語指導の充実などを提言した。
県教委高校教育課は入試での配慮などについて「拡充を含めた対応の検討が必要だ」と話した。