【別府】別府市扇山で日本料理店「伊勢正」を経営してきた調理師斉木伊三男さん(85)が料理の一線から退くことになり、16日、市内のホテルで「包丁納め式」が開かれる。この道、70年の大ベテランが親族や関係者に見守られながら静かに包丁を置く。
代表発起人で日本調理師連合会長の森口冨士夫さん(81)=津久見市四浦出身、豊の国かぼす特命大使=によると、包丁納めは料理人としてキャリアに一区切りをつける儀式。評価が極めて高く発起人がいなければ開けない名誉ある行事で、別府市では約35年ぶりという。
斉木さんは熊本県水俣市出身。家が貧しく地元の中学校を卒業後、「家計を支えたい」と料理人の道に進んだ。同県の八代市や菊池市の料亭などで腕を磨いた。その後、料理の師匠から腕を見込まれて別府市北浜の老舗旅館「清風荘(現・大江戸温泉物語別府清風)」に。当時は「全国最年少、二十歳の料理長」として業界紙で紹介されたという。
「良い料理人は料理でお客さまと対話をする」をモットーに料理長として腕を振るった。その傍ら、取締役に就き経営手腕も発揮した。弟子は約50人。後進の育成に力を注いだ。
「自分の店を持つのが夢。一勝負しよう」。52歳の時、扇山に「伊勢正」を構えた。閑静な住宅街で経営を危ぶむ声もあった。だが、ふぐ料理や釜飯が口コミで評判を呼び、地元や県内外から大勢のファンが足を運ぶようになった。
納め式が決まった後の今年4月20日。二人三脚で歩んできた妻の光子さん(84)が足にけがをして市内の病院に入院した。「これが引き際だろう。悔いはない」
斉木さんは「料理人として真っすぐやってきた。納め式を開いてもらい、皆さんには感謝の言葉しかない」と話している。