第108回全国高校野球選手権大分大会で優勝し、13年ぶりに夏の甲子園出場を果たした大分商。真っすぐ選手と向き合う那賀誠監督の下、個性豊かな顔ぶれがそろう。紙面だけでは紹介しきれないエピソードやこぼれ話を随時紹介する。
「追い込まれてよく開き直ってくれたですよね。彼があそこでつぶれるんじゃなくて、『起死回生』と気持ちを切り替えて、しっかりと振り切ってくれたから良かった」
大分大会決勝。2点をリードした大分商は七回の攻撃で無死一、二塁とダメ押しの大チャンスを迎えていた。打席には準々決勝で本塁打を放ち、6番から3番に打順を上げていた強打者・木村颯汰。なんとしても追加点が欲しい場面で、那賀監督は「ここは絶対や」と送りバントの指示。「1死二、三塁にして次の主砲に回そうや」と木村に託した。
ただ津久見の好投手も簡単にはバントをさせない。うまくコースを外され、2球続けて失敗。追い込まれた。「スリーバント失敗(ツーストライクの後、ファウルなどでバントができなければ打者はアウト)」なんてことになれば、相手を楽にするどころか勢いづかせてしまう。
そんなターニングポイントで、打撃好調の木村はバントからヒッティングに切り替えた。見事に右中間にはじき返し、走者一掃のツーベースヒットに。さらにこの回1点を加え、試合の大勢を決めたのだった。
決勝で3安打3打点と大暴れした木村は打のヒーロー。中でも優勝の決め手となった七回の二塁打は大きかった。ただ那賀監督は優勝後のインタビューでその“一打”が生まれた経緯を包み隠さず語った。
「あそこはもうバント一発で決めてほしい。困ってたみたいなんでヒットエンドラン(走者を一斉にスタートさせて打者は当てにいく作戦)に切り替えましたけど、やっぱ決めてくださいよって思いでした」
優勝の祝福ムードもお構いなしに「反省」を促すと、球場はドッと笑い声に包まれた。その上で、冒頭の言葉でしっかりと「アフターケア」。その姿には名将の風格がにじみ出ていた。 (福)