斎藤幸平、小川公代、安田登、秋満吉彦著「血肉となる読書」
(あさま社・2200円)
インターネットや交流サイト(SNS)、人工知能(AI)などで得るタイパ重視の情報が世を席巻し、本離れはかつてないほど進んでいるといわれる昨今。そこに一石を投じる、心強い一冊が放たれた。
ナビゲートは、中津市出身で、古今東西の名著を読み解くNHK・Eテレ「100分de名著」のプロデューサー、秋満吉彦さん。番組講師を務めた経済思想家の斎藤幸平さん、上智大教授の小川公代さん、能楽師の安田登さんという論客3人を招き、体験を交えた読書の魅力を伝え「血肉」にする術をひもといた。
斎藤さんは大学時代にマルクスに出会い、米国留学時に貧困や格差について目の当たりにするなどの経験をし「読書体験と問題意識が響き合う中」で読むべき道を少しずつ固め「読み継がれてきた名著には、未知の危機にも対応できる時代を超えた真理がある」ことにたどり着いたという。
かつてアダム・スミスがヒーローだったという小川さんは、生きづらさを抱える女性たちの本から「ケアの倫理」という思想を知る。マジョリティー視点中心だった自分に気づき人生が大きく変化したことを紹介。文学だけが持つ魂を癒やす力についても語っている。
安田さんはAIによる時代の転換点が迫る今、温故知新として古典を読むことを薦める。「多くの人が『残すべきだ』と考えた、それだけの意味や価値があったのが古典。その力に支えられ、古いよきものを参照することで私たちは未来を考える(知新する)ことができる」という言葉は示唆に富んでいる。
4人の「血肉とするための読書技法」も多様で、「自分に書かれた手紙だと思って読む」「誰かに語るために読む」「違和感を抱いた一文を大事にする」「身体を動かし(いろいろな場所で読書をし)、メモを取る」など有効なアドバイスが並ぶ。
「ゆっくりと考え、つまずいたときに前に進むための力を得られ人生を太く豊かにする」のが読書だと本書では語られる。その力を養うための刺激と方法、知恵が詰まっている。
(高橋桂子・大分合同新聞記者)