~(上)のあらすじ~
月面の影から、こっそり地球人の営みを見守る知的生命体がいた。とびきり進んだ科学技術と精神文化を備える「ギャラクシー・アライアンス(銀河連合)」の派遣チームだ。地球人にも手を差し伸べようと試みてきたが、地上はドンパチがやまない。タイミングをつかみあぐねているうちに、見守りチームは千年の赴任期間を終えようとしていた。後任チームの到着まで、あと1日。しみじみ、振り返り始めた。
「早いものです。振り返ると、この星はたくさんのワクワクドキドキも見せてくれました」
「まったくだ。地球人はとにかく歌がうまい。喉を震わせるだけで、こちらの心までブルブル揺さぶられたものだ。今、映画館でやっているヒット作品があるけれど、モデルになった歌い手さんは、健在であれば銀河屈指の大スターになったと私は思うよ」
「ぜひ宇宙デビューを果たして、得意の『ムーンウオーク』ってやつを披露してほしかったですね」
「本当に」
「そういえば、こないだまでやってた球蹴り大会も興奮したなあ」
「島国のチームが大健闘しましたよね。球蹴り王国のチームを相手に、一時はリードしたほどなんですから」
「しかも、主力選手がけがで相次いで欠場する中での奮戦ときた。チームワークのポテンシャルってのを、存分に見せてくれた」
「助け合い、支え合いの妙ですね」
「助け合いといえば、災害のときは国も地域も関係なくお互いに救いの手を差し伸べてきたよなあ」
「いつもはけんか腰でぶつかり合う国同士も、この時ばかりは相手の国にいたわりの言葉をかけたり、救助チームを送ったりしていましたね。ウルっとさせられました」
「この星には、いいところが数えきれないほどある」
「本当に」
・・・あらためて、望遠鏡をのぞき込む。海原を経て、細長い島が再び現れる・・・
「最後の一回転が、終わりましたね」
「うむ」
「交代チームも、先ほど月面に着陸したようです」
「・・・(沈黙)」
「・・・?」
「これで、いいのだろうか」
「?」
「われわれは、このまま収穫もなく母星に帰っていいのだろうか」
「と、いいますと?」
「私は思うが、この星の住民たちはあともう少しで精神面でも成熟の域に達する。私はそう信じる。それを見届けずして、任務完了とはいかないんじゃないだろうか」
「それはまあ」
「・・・」
「・・・」
「延長、するか」
「・・延長?」
「あと千年、見守り任務、延長」
「あと千年て、地上の『カラオケボックスで1時間延長』みたいに軽く言わないでくださいよ。流れでうなずきそうになっちゃったじゃないですか」
「でも、お前も未練があるんだろう? この星に」
「ええ? そりゃあ、まあ」
「この星の住民と、もうちょっと言えば眼下の島国の連中と、サラリーマンたちと、赤ちょうちんに飛び込んでみたいんだろう?」
「・・・」
「『2時間飲み放題』とか、『メガハイボール』とか、『新橋SL広場』とか『ガード下』とか、一緒に体験してみたいんだろう?」
「・・隊長が体験したいんでしょ!」
「もし、もしもだよ。彼ら地球人が円熟した知的生命体になれたとしたら、われわれは胸を張って宇宙船で彼らを訪ねることができるんだ。そして、一人一人とガッチリ握手からのハグを交わせる。そんな光栄な場の当事者に、なりたくはないかい?」
「・・それは、確かに」
「おお?」
「分かりました、われわれは隊長と一緒にあと千年、この月面で地球人たちを見守ることにします。そして、友好の契りを結ぶタイミングを、待ち続けます。そして・・」
「そして?」
「SL広場で待ち合わせ! 赤ちょうちんスタートからの、スナック行き! 締めは、ラーメン屋さんで満腹丸! こうなったら絶対、地球人とTOMODACHIになってやるぞう」
「その意気だ、青年。何より私たちの寿命は地球人よりはるかに長い。『待てば海路の日和あり』だ」
「うまいこといったような、そうでもないような」
「千年もいると、この惑星のことわざをたっぷり覚えてしまうなあ」
「隊長は、もうすっかり地球人ですね」
「はは。『冗談はよし夫くん』、だよ」
・・・交代のため訪れた後任チーム、拝み倒され母星へと再び戻っていく。「変わったコンビだな」・・・
夜空の向こうで、今この瞬間もわれわれを見守る存在がいるかもしれない。未知との遭遇は、それほど遠くないのかもしれない。その瞬間に立ち会うためにも、まずはこの地球で友達の輪を力いっぱい広げていきたいものだ。
(文・マーおじさん)
~現実を追いかける新聞記者が、空想の世界を駆け抜けます。お楽しみに~