「隊長、そろそろですね」
「もう、その時が来たか。正直言って、名残惜しいよ」
「私も同感です」
「できればわれわれの赴任中に、彼らをギャラクシー・アライアンス(銀河連合)の仲間として招き入れたかったんだがなあ」
「進化した知的生命体だけでつくる友好団体。ワクワクしかない」
「その通り。だが、肝心の精神面で成長が伴っていないうちは、手を差し伸べられない。われわれが彼らに姿を見せることもできない。これはアライアンスの決まりだ。こればっかりは、どうしようもない」
「相手を貶(おとし)めたり傷つけたりしようとする者が一人でもいると、よどんだ空気はやがて周りに伝播(でんぱ)していきますからね」
「そして組織全体が腐っていく。彼ら地球人の言葉でいう、『腐ったリンゴ』理論だ。今の彼らを見ている限り、まだわれわれとハグできる段階には至っていないようだ」
「振り返れば、彼らの時間でいう『千年』の間、私たちはこの月面からこっそり彼らの営みを見守ってきました。われわれの高性能望遠鏡を使って、彼らの息遣いまで感じられるほど身近に」
「うむ。しかも音声までよく聞こえるというスグレモノでな。ただ残念なことに、われわれには母星の本部から既に帰還命令が出ている。後任のチームと交代するまで、地球の時間でいうと残り『1日』になった」
「寂しくなります。せめて、この美しい水の惑星があと1回転するさまを、まぶたに焼き付けることにしましょうか」
「そうだな。それにしても、存在を知られぬまま去ることになるとは、こんなつらい片思いはないよ」
・・・しばらく後。望遠鏡のレンズ越しに、大海原と小さな島が現れる・・・
「隊長、この島の住民たちは面白かったですね」
「おお、NIPPONか。サラリーマンという人種が特に思い出に残っているぞ」
「望遠鏡でよくズームアップして眺めたものです。黄色い、シュワーッとした液体を飲んでは愉快になり、くだを巻いては反省する。つかみどころのない種族でしたね」
「うむ。哀愁の漂い方が際立っておった。憎めない面々でもあったなあ」
「この島の言葉でいう『人畜無害』ってやつですかね」
「うむ。彼らと杯を交わしたら、どんなに楽しかっただろうか」
「本当に」
・・・ほどなくして、東西に長~い陸地が現れる・・・
「隊長、これは地球で一番広い大陸でしたね」
「ユーラシア大陸という。おっきいだけに、人種も信仰も文化も個性的なものが多かったなあ。それだけもめ事も多くて、見守る側としてはつらいものがあった」
「ですねえ。神さまの名の下に血なまぐさい戦いを繰り広げたり、元々誰のものでもない土地の所有権でバチバチしたり。最近じゃあ、原油とかいう自然の恵みを取り合いこするかと思えば、その製造工場を壊し合ったりなんかして、訳が分かりませんでしたよ」
「本当だなあ」
「私たちが見守ってきたこの千年、この惑星ではいろんなことがありました。大航海時代で世界がつながって、産業革命で暮らしが良くなって。2度の世界大戦、冷たい戦争もくぐり抜けて、ようやく安定成長期に入ったぞ、われわれのアライアンスにいよいよご招待できるぞーと期待に胸膨らませていたら、21世紀に入ってまるで振り出しに戻ったようです」
「まったくだ。それに、間の悪いことに人工知能(AI)というハイテク技術が生まれて急発展中じゃ。生かす方向を間違えると、この惑星は破滅へまっしぐらだ」
「今が地球人にとっての正念場かもしれませんね」
「その通りだ」
・・・しばらくして、再び大海原。そして新たな大陸が登場する・・・
「隊長、この陸地の人々はいつもつらそうでした」
「そうだな。一番の金持ちで、最強とされておるが。自由を掲げ、理想こそ素晴らしいと思うんだが、そこここで鉄砲がぶっ放されて、肝心の治安さえいいとは言えなかった。多くの人が流していた涙も忘れられん。この国の人々は、幸せなのかそうでないのか、今でもよく分からんよ」
「よその国にちょくちょく戦(いくさ)も仕かけていましたねえ」
「この国にも言い分が多分にあったのだろうとは思う。ただ、そうとは言えない場面もあったようだ。国内でよく起こっていた反対デモがその証しじゃないかな。あの、ベトナム戦争とやらは何で始めてしまったのだろうか。悲しいばっかり。どの国であれ、力にものをいわせようとする姿勢は、いずれ無理がくるんじゃないかな」
「同感です。私は、この美しい水玉に暮らすみんなが、物騒な機器からさっさと手を放し、代わりに抱きしめ合う姿を見たいです」
「私もだ。このすてきな惑星には、そんな和やかな光景のほうがずっとずっと似合っている」
「と、きたところで、やはり彼らにお勧めしたいのがギャラクシー・アライアンスへの仲間入りですよね。宇宙に広がる、友達の輪」
「その通りだ。そういえば、さっきレンズ越しに見えた島国でも似たようなキャッチフレーズの電波番組があったような」
「そうそう。友達に友達を紹介してもらって、それをひたすら続けて、記録的な長寿番組に育ったっていうんですから、すごいものです」
「アライアンスは、まさにそれを銀河スケールに広げたものといえるだろう。仲間入りした星人は、お互いの文化文明を紹介し合える。そこにはもう、感動と尊敬しかない」
「本当に。喜びは、すぐそばにあるんだけど」
・・・隊長と若手、望遠鏡を傍らに置く。母星のある方向の宇宙空間に目をやる・・・
「そろそろ、交代チームがやってくる頃だな」
~(下)に続く~