【Gateインパクト】サラリーマン歩き旅⑮県庁-県庁の旅

 歩いてつなぐ旅で、1日に進める距離はたかが知れている。体力もあった20代の頃でも、ザックをかついで40キロちょっとが限界だった。今では20キロで足腰が悲鳴を上げる。長距離を進める車やバイクに比べると、距離的に「今日は進んだなあ」と達成感を味わうことはあまりない。

 ただ、例外もある。ある県の県庁所在地から、隣の県の県庁所在地まで、たった1日でたどり着けたという経験がある。まるでワープしたようで、興奮した。それはどの地域か、みなさんご想像がつくだろうか。30秒ほど考えていただいた後で、次の段落に読み進んでいただければありがたい。ちなみに太平洋側。

 答えは、実は複数ある。一つは愛知県名古屋市―岐阜県岐阜市。名古屋を北に進み、大きな川を二つほど渡ると、日が沈む前には美濃国のシンボル・金華山の麓にたどり着いた。散歩と変わらない程度のノロノロペースで、お隣の県の中心地まで行けるとは。こんな経験は、歩き旅をやっていて初めてのことだったので驚いた。

 道中で渡った、木曽川だったか長良川だったかの、のどかな風景が忘れられない。ゆったりと流れるその上を歩いている時、どこに自分がいるのか一瞬分からなくなった。夕日が温かく全身を照らし、元気を分けてもらったのを覚えている。

 さて、答えはもう一つある。これは想像がつくのではないだろうか。滋賀県大津市―京都府京都市だ。琵琶湖のほとりに広がる大津のまちを出立すると、ほどなく県境を越えた。東海道の起点・終点である京都三条大橋まで、そこからはあっという間だった。

 途中の山科を通りかかった頃、大きく右にカーブした坂道を上る途中で目にした看板が印象的だった。和歌が記されていた。

 「これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂(おうさか)の関」

 昔、このあたりにあったとされる関所にちなんだ一首だ。ここを過ぎるといよいよ京ということか。旅情を大いにくすぐられた。

 1日で二つの県庁所在地に滞在することができ、それぞれご当地グルメや景勝地を楽しめた。ご当地新聞は地元の話題がてんこ盛りで面白かった。ただ正直に言うと、県庁同士があまりにも近いと、どちらか大きい都市に人も活気も吸い寄せられていくようで、少しもの寂しく感じた。規模の小さい方はどうしても分が悪くなるのだろうか。名古屋に近い岐阜、京に近い滋賀のまちには、大都市の重力に引っ張り込まれんごと、踏ん張ってほしい。一介の旅人としても応援している。

・・・

 お隣同士で県庁所在地が近い県もあれば、遠い県もある。私自身が歩いてきた中では、どの県からも相当に遠い県がある。それはどこか、みなさんご想像がつくだろうか。再び30秒、想像していただきたい。

 答えは、われらが大分県だ。

 実際に歩いたので紹介する。西の熊本県までは、5日かかった(大分市―野津原―竹田市―阿蘇市―大津町―熊本市)。

 北の福岡県までは8日かかった(大分市―由布市―玖珠町―日田市―うきは町―久留米市―宮の陣―大宰府市―福岡市)。

 南の宮崎県はまだ県庁所在地にたどり着けていない。途中にある延岡市までで既に8日(大分市―佐賀関―臼杵市―津久見市―佐伯市―蒲江高平―波当津―下阿蘇―延岡市)。まだあとどれくらいかかるか、分からない。

 大分県民が、時折ふるさとを「陸の孤島」と嘆く理由も分かる。ただ、それだけ離れているからこそ、言葉も文化も経済圏もほぼ独自のものを維持してこられたのではないかと思う。道路交通網や官庁の拠点は福岡ー熊本ー鹿児島のラインに偏っているようにみえるが、逆にいえば伸びしろはこっちのほうが大いにあるともいえる。観光だってそうだ。陸の孤島、大いに結構。これから陸の王者を目指そう。楽しみはこっちにたっぷり残っている。

 孤島ついでに、大分弁は九州他県のものとは別モノだと感じる。旅で九州各地を歩いてきた者として、つくづく思う。立ち寄るコンビニで「どがんしますか」と聞かれたり、道中出会う方から「~ですたい」と言われたりして、アウェーを感じることが多々あった。言葉のイントネーション、強弱が相当違う。瀬戸内に開けた大分の言葉は、標準語に近くて少し都会の言葉のように感じられるのだが、これは一大分県民の思い上がりだろうか。

 県庁―県庁の旅については、実はほかにも思い出深いエピソードがある。別の機会であらためて触れたい。

 (旅師X)

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