【Gateインパクト】消えた財布と京都の朝

 毎年8月に雄城台高の同窓会が開かれる。今年は私たち20回生が幹事学年ということもあり、交流サイト(SNS)で旧友らと連絡を取っていたら、ふと修学旅行で起きた「財布盗難事件」が頭によみがえった。

 あれは平成5(1993)年6月。私たち20回生が高校2年生だった時の修学旅行である。

 京都に滞在し、その後、奈良方面を巡る日程だった。

 初日の宿泊先は、西本願寺近くの旅館。当時は各部屋に「貴重品袋」が用意され、財布などを入れてフロントに預ける仕組みだった。

 修学旅行のお小遣いは確か3万円まで。もちろん、その枠を少しだけ、あるいは大幅に超えていた人もいたことだろう。私はちょっとだけ超えていたかな。

 昼間はクラスごとに京都市内を自主研修。私のクラスは立命館大などを見学して周辺の寺社を巡ったと記憶している。

 翌朝、出発準備をしていると様子がおかしい。

 「ちょっと待て」

 そんな連絡だけが回ってきた。

 誰か何か問題でも起こしたのか? そんな話をしてると、そのうち「昨日、ぼや騒ぎがあったらしいよ」という話も聞こえてきた。私は全く知らなかった。どうやらその時間も熟睡していたらしい。修学旅行といえば夜の思い出がつきものだが、そのあたりの記憶は見事にない。

 やがて私たちのクラスも呼ばれ、前夜に夕食を食べた大広間へ向かった。

 旅館の従業員が並び、そこで告げられたのは、ロビーで預かっていた貴重品袋が盗まれたという話だった。

 旅館側は謝罪し、銀行が開き次第、現金を弁償すると説明した。学校で決められた金額を超えていても学校は関知しないので、そのまま申告してほしいという説明まであった。

 ちなみに私は財布を預けていなかった。昔から少し疑り深い性格だったのか、それとも単なる面倒くさがりだったのか。理由は覚えていないが、おかげで被害には遭わなかった。

 その後、一人一人に現金が渡され、私たちは予定通り奈良へ向かった。

 先日、この出来事を思い出し、社のデータベース部で当時の新聞を探してもらった。平成5年(1993年)7月11日付の大分合同新聞朝刊には、こんな記事が載っていた。

 「雄城台高校生の預けた200万円盗む 京都の旅館従業員」

 京都府警七条署は十日までに、勤務先の旅館で預かった修学旅行生の小遣いなど約二百万円を盗んだとして、窃盗の疑いで京都市旅館従業員の男(四六)を逮捕した。

 調べによると、同容疑者は同市下京区の旅館でフロント主任をしていた六月二十二日夜、修学旅行で宿泊した大分市の大分雄城台高校の生徒が預けていた貴重品が入ったバッグなど十数個を、ロビー奥の部屋から盗み出した疑い。

 バッグなどには生徒が集めた修学旅行生四百四十五人のうち、約六十人分の小遣い約二百万円が入っていた。翌日朝、生徒がバッグを受け取りにきて被害が分かった。旅館側は同署に被害届を出し、生徒に弁償、一行は奈良方面に旅行を続けた。

 調べに対し、男は「飲み屋などの借金返済に充てた」と供述している。

 改めて読むと、なかなかの事件だ。

 ただ、不思議なことに私の記憶に残っているのは被害額でも犯人でもない。

 何が起きたのか分からないまま大広間に集められた朝の慌ただしさ。そして夜中のぼや騒ぎにも気付かず眠り続けていたことだ。

 記憶とは面白い。

 大事件だったはずなのに、31年たった今では「あんなこともあったな」と懐かしく思い出す。

 8月11日の同窓会、もし出席できたら、私が寝ている間に何があったのか、同級生たちに答え合わせをしてもらおうと思っている。
      
 (衛藤知愛)

最新記事
【Gateインパクト】旅するための読書(4) 茨木のり子 『ハングルへの旅』
【Gateインパクト】書評~大分合同新聞読書欄から 森民夫編集「首長たちの戦いに学ぶ 災害緊急対応100日の知恵」
【Gateインパクト】虎の書斎(4) 映画チラシの魅力
【Gateインパクト】大学受験体験談(緒方夏美さん)
【Gateインパクト】大学受験体験談(安部優希さん)