昨年10月に101歳で亡くなった村山富市元首相が、阪神大震災当時の写真を掲載した新聞の切り抜きを、自身の財布の中に忍ばせていたことが家族への取材で分かった。被災者の救援と復興の陣頭指揮に当たった貝原俊民・元兵庫県知事の死去を伝える2014年の神戸新聞だった。首相在任中に起きた大震災に対する沈痛の思いが、最晩年まで深く刻まれていたことがうかがえる。
切り抜きは14年11月14日付の紙面。震災発生から2日後の1995年1月19日に被災地入りした村山さんが、貝原さんらと並んで神戸市内で記者会見に臨んだ時の写真を載せていた。その部分を切り取り、晩年まで使っていた黒い長財布に入れていた。
次女の中原由利さんによると、大分合同新聞が村山さんの日記の存在を報じた今月3日、娘から「財布の中に新聞の切り抜きが入っていたね」と教えられた。中原さんが確認すると、紙幣を入れる仕切りの間から、きれいに四つ折りにされた状態で見つかった。
村山さんは貝原さんが死去した14年11月、大分市の自宅で、震災から20年に合わせた記事のインタビュー取材を神戸新聞から受けていた。
取材をしたのは当時、神戸新聞社の報道部編集委員だった磯辺康子さん(61)=現・神戸大特命准教授。「村山さんは『自責の念が消えることはない。毎年1月17日に黙とうしている』と率直に自身の責任を語っていた。被災者の心が少し穏やかになるような誠実さを感じた」と振り返る。
磯辺さんは、村山さんに新聞を渡したかどうかはっきり覚えていないという。切り抜きについて「日々使う財布に入れて、気に留めて忘れないでいてくれていた。震災の遺族と同じように、村山さんの中でもあの震災は終わっていなかったのだと思う」と話した。