【Gateインパクト】書評~大分合同新聞読書欄から 森民夫編集「首長たちの戦いに学ぶ 災害緊急対応100日の知恵」

 森民夫編集「首長たちの戦いに学ぶ 災害緊急対応100日の知恵」
(ぎょうせい・3850円)

 災害時に住民がまず頼りにするのは自治体だろう。しっかり機能しなければ、避難生活、復興、暮らしの再建は困難を極める。とりわけ首長は、指揮官としての手腕が問われる。大災害に見舞われた市町村の体験や知恵を集約した本書は、非常時の手引書である。
 2016年の熊本・大分地震で、人口約3万4500人の熊本県益城町では、ほぼすべての町民が避難生活を強いられた。西村博則町長は振り返る。役立ったのは、2005年度から開かれている「水害サミット」がまとめた「災害時にトップがなすべきこと」のファイルだった。災害廃棄物の仮置き場の手配やボランティアセンターの立ち上げ、定時の記者会見の必要性などが示されていた。
 これに沿っても混乱の連続だった。西村町長はこのときの経験から「対応や復旧の歩みを公表することが使命だ」と語る。職員の思いや判断、行動をありのままに残すことを決め、町や自身にとって不都合なことや批判もすべて記載した記録誌を発行した。本書のコンセプトに通ずる。
 被災地の首長の思いには共感するところが多々ある。大西一史熊本市長は「予断を持たず常に最悪を想定し、大きく構えることが重要」と言う。この考え方は報道機関にも当てはまる。
 2024年の能登半島地震で石川県七尾市にテント村を設けた岡山県総社市の片岡聡一市長は「権力の複数構造が災害支援を遅らせる」と断言する。同感だ。「船頭多くして船山に登る」は避けるべきだ。
 2014年と2018年には広島市を豪雨が襲った。住民の避難情報の受け止めに課題があると感じた松井一実市長は、確実な安全確保行動の重要性を説く。大分県内でも「自分は大丈夫だ」と過信している人は多いのではなかろうか。
 想定外、トラブル、気力と体力の限界。さまざまなことが起きて当然だ。自治体だけに限らず、企業など民間組織の有事対応や、被災者の心の持ちようも本書から見えてくる。
(下川宏樹・大分合同新聞社編集局長)

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