大分県内の某有名企業の役員Mさんとは小、中、高校の同級生で、今も親しくさせてもらっている。そのMさんのコレクションを見せてもらったのは中学生の時だった。
ルーズリーフにとじたクリアポケット(A4サイズ)の中に、映画のチラシがファイルされていたのだ。洋画、邦画、アニメーション。チラシには、その作品の最高のシーンと、目を引く宣伝文が印刷されていて、どれも美しくて楽しい。
それはそうだろう。集客を狙って宣伝用に作ってあるのだから、ポスターとはまた違った趣がある。これから上映される作品のチラシは映画館に行けば棚にたくさん置いてあり「ご自由にお持ち帰りください」なのだ。
チラシを集めようなんて抜群のセンスだし、カネもかからない。影響を受け、Mさんをまねてチラシコレクションを始めた。当初はかなり精力的に集めたが、しばらくやっているうちに「あれもない」「これもない」「大分ではやらないから手に入らない」と、抜けがありすぎることが自分で気に食わなくなり、切りがないので、残念だが集めるのをやめてしまった。
やがて大人になった。ふと書店に立ち寄ってしまう習慣のようなものは子どもの頃からあった。ボーッとしながら本を見て回るのが好きなのだ。仕事の合間に、かつて大分市中央町にあった明屋書店で何げなく本を見て回っていたある日、チラシコレクションの魂を呼び起こす1冊を見つけた。
映画専門誌「スクリーン」の特別版「外国映画の戦後50年 チラシ大全集 パート1」(近代映画社)が目に飛び込んできたのだ。手に取り、パラパラとめくると、さまざまな映画のチラシがビッシリ印刷されているではないか。胸が高鳴り、迷わず、すぐに買った。
今回、「虎の書斎(4)」を書くに当たって発行日を確認したところ、裏表紙に平成7年(1995年)6月30日とあった。つまり、この本との出合いは1995年ということになる。定価1500円(本体1456円)となっているから、消費税3%の頃だ。
パート1は全208ページで、戦前と1945年~1969年の洋画が網羅されている。併せて事件、事故、文化、流行など時代背景のまとめもある。続けて発行されたパート2(1970年~1979年)、パート3(1980年~1989年)、パート4(1990年~1995年)も、書店に並ぶたびに購入した。
掲載されているチラシはこんな具合だ。例えば「監獄ロック」(1962年)はギターを持ったエルビス・プレスリーが全面にドンと印刷され、「叩きつける若さと情熱! 歌い踊りまくるプレスリーの魅力爆発!」の宣伝文が期待感をあおる。
「猿の惑星」(1968年)は、強くて頭が良さそうな猿たちと、逃げるような人間の絵に「こんなすごい映画が出現した!」のキャッチコピー。とにかく見ないと損をしそうな気にさせる。
「ET」(1982年)はこうだ。「遙か300万光年の彼方から、未知なる地球へ・・・ 彼は、独りぼっちで恐怖におののいていた」。この文章を宇宙空間に重ね、遭遇したことのない生命体と人間の子どもの指先が触れ合うシーンを中央部に配置。感動の作品であることを確信させる。
以上のように、チラシは「絵」も「文章」も大事であることが分かるが、本をじっくり見ているうちに、宣伝文がいくつかのパターンに分けられることに気付いた。
まずは【前作ヒットで十分やっていける系】。「スターウォーズ 帝国の逆襲」(1980年)には「スターウォーズシリーズ第2弾!」とだけある。また「インディー・ジョーンズ 魔宮の伝説」(1984年)は「今夏 スティーブン・スピルバーグのインディー・ジョーンズに会える!」だけだ。かなり強気だ。
次に【他人のふんどしで相撲を取る系】。「ミラクルワールド ブッシュマン」(1982年)は「スーパーマン エレファント・マン そして82年新春・・・第三の男(マン)がやってくる」ときた。
【賞取り期待系】のパターンは多い。例えば「トッツィー」(1983年)は「第55回アカデミー賞10部門ノミネート!」の打ち出しで勝負。「マルコムX」(1993年)は「本年度アカデミー賞最有力候補作品!」だ。
いろいろあるが、個人的には【短文インパクト系】に引かれる。「スーパーマン」(1979年)は「あなたも空を飛べる!」。そう言われると、飛びたくなるじゃないか。「ゴリラ」(1986年)は「炸裂連弾!」。これでもかと言うくらい機関銃をブッ放すのだろう。「エイリアン」(1979年)は「宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない」。怖い。
今はインターネットで映画のチラシが検索できる時代だが、それだとどうも味気ない。「調べる」「見る」のが目的なら検索画像なのだろうが、「やはり所有感がある紙の方が魅力的だな」と、つくづく思う。
(虎)