【問う 時速194km交通死亡事故】加害者と被害者④ 新制度で受刑者と面談、本質感じた後悔の言葉

事故現場で加害者への心情を語る被害者遺族の松永拓也さん=2月、東京・東池袋

 11人が死傷した「池袋暴走事故」の裁判が終わってから2年2カ月がたった2023年12月。被害者や遺族の気持ちを受刑者に伝える「心情等伝達制度」が全国で始まった。
 被害者遺族の松永拓也さん(39)は悩んだが、制度を利用すると決めた。事故の犠牲になった妻真菜さん=当時(31)=と長女莉子ちゃん=同(3)=に、加害ドライバーの飯塚幸三氏が、どう向き合っているのかを知りたかった。心ない言動で、傷つくかもしれない。それでも「やってみる価値がある」と決断した。
 飯塚氏は、禁錮5年の実刑判決を受けていた。収監先の刑務所職員を通じて書面で本人に面談を申し込み、受け入れられた。
 24年5月下旬。アクリル板で仕切られた接見室に現れた飯塚氏は92歳になっていた。車椅子に乗り、マスクを着けていた。表情は読み取れないが、「一気に年老いた」と感じた。
 向き合って椅子に腰を下ろし、「目的を忘れない」「怒りにのまれない」と記したメモを手元に置いた。感情をコントロールし、実りある時間にしよう。
 自分にそう言い聞かせた。

 「飯塚さん、こんにちは。面談を受けてくれてありがとうございます」。一言目に、謝意を伝えた。
 「飯塚さんの後悔を無駄にしたくないので、私が社会に伝えていきたいです」と語りかけると、うなずく姿が見えた。
 ただ、加齢による衰えなのか、言葉が返ってこない。事前に用意した質問にも答えられそうにない。
 一方的に話しかける状況が続く。何分たっただろう。「世の中の高齢ドライバーに伝えたいことはありますか」。そう問いかけた時、飯塚氏が口を開いた。「免許の返納を考えてほしい」
 たどたどしく発した言葉は、心の中に色濃く残っている「後悔」なのだと、松永さんは受け止めた。「運転し続けたことを悔やんでいたという、重要なメッセージだった。不安があったけど、やめられなかった。それが事故の本質ではないか」と感じた。
 面談の5カ月後、飯塚氏は老衰のため刑務所内で亡くなった。93歳だった。
 知らせを聞いた時、「無念だったろう」と松永さんは思った。「家族にみとられることもなく、孤独で、穏やかとは言えない死だったと思う。これが誰も幸せにならない交通事故がもたらす現実だ」

 加害者である飯塚氏との対話。憎しみが溶けるような気持ちになったが、「今も許しているわけではない」。ただ、個人の感情は社会にとって大事なことではない、と考えている。「僕が許したとしても、悲惨な事故がなくなるわけではないから」と続けた。
 飯塚氏が生きていたら、今秋、刑期を満了していた計算になる。「加害者と被害者の立場を超えて、事故が招いた悲しみ、苦しみ、後悔を語り合う機会をつくりたかった」と惜しむ。
 「出所したら、いつか対話しましょう」。その願いはかなわなかった。

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