大分市の時速194キロ死亡事故で被告の男(24)に危険運転致死罪を認めなかった福岡高裁の控訴審判決を受け、被害者遺族と代理人弁護士は26日、福岡高検に最高裁への上告を求める要望書(A4判・23ページ)を送った。「一般常識と懸け離れた判決。裁判員裁判の一審判決が覆され、司法に裏切られたとの思いを拭えない」と訴えている。29日に高検幹部と面会する。
弁護士によると、要望書は最高検の検事総長や福岡高検の検事長らにファクスで届けたという。
22日の控訴審は一審大分地裁判決を破棄した。一審が認定した危険運転致死罪の対象となる「進行を制御することが困難な高速度」に当たらないとして、過失運転致死罪を適用。量刑を懲役8年から4年6月に引き下げた。
要望書では、控訴審を厳しく批判した。「これほどの事故でも、この程度の刑罰に過ぎないとの認識を社会に広めることになる」。将来の悪質運転の抑止につながらないと問題視した。
危険運転致死罪を適用しなかった理由について、高裁の平塚浩司裁判長は判決で説明している。
制御困難な高速度を「道路の状況に照らし、ハンドルやブレーキの操作のわずかなミスにより、自車を進路から逸脱させて事故を発生させることになるような速度」と従来通りに定義した上で、次のように結論付けた。
「被告の車は直進を続けており、車線から逸脱したり、スリップを起こしたりするなど、進行の制御に困難な事態が生じていた事実は見いだせない」
「現場道路を194キロで走行した場合にハンドルの切り方やブレーキのかけ方が車にいかなる影響を与えるか、何らの立証がされていない」
これに対し、遺族側は要望書で反論した。
「194キロもの速度で走行すれば、ハンドルやブレーキの操作ミスが起こり、被告の車は車線から瞬時に逸脱し、立て直しが困難となって蛇行、スピンするなどの事態は容易に想定できる」
一審が市民感覚を反映させる裁判員裁判だった経緯も重視し、「(地裁判決は)裁判員の健全な社会常識に基づく経験則が発揮された判断だった」と述べ、もっと尊重されるべきだと強調した。
194キロの走行状況が立証不十分とされた点については、「常軌を逸した高速度の再現はあまりに危険。再現不能な危険運転であるほど立証ができなくなるのは不合理だ」と疑問を投げかけた。
危険運転致死傷罪は各地の裁判所や検察によって適用の線引きが異なる実情があるとして、「被害者や遺族は翻弄(ほんろう)されている。法解釈を統一しなければ、捜査中や裁判中の事案で混乱は続く。最高裁に上告し、統一的な判断を示す必要性は極めて高い」と訴えた。
事故で亡くなった大分市坂ノ市南、会社員小柳憲さん=当時(50)=の姉(60)は、「暴走運転による事故は残念ながら数多く発生している。判決が確定すれば、そういった被害者や遺族が社会常識から懸け離れた判断に泣かされてしまうことになる」などと記した陳述書を高検に出した。
上告を求める遺族のオンライン署名は、既に2万人分を超えた。最高裁への上告期限は2月5日になる。
<メモ>
事故は2021年2月9日午後11時ごろ、大分市大在の一般道(法定速度60キロ)で発生した。当時19歳だった被告の男は、乗用車を時速194・1キロで走らせ、交差点を右折してきた乗用車に激突。運転していた小柳憲さんを出血性ショックで死亡させた。